「ロンドンのビッグベンの前なんかで告られたりしたら、やっぱり嬉しいもんやろか、女っちゅーんは」
「え?」
2人きりの教室で、突然そんな話題を振られてびっくりした。
だって、今目の前におるんは、そういう悩みとは無縁なんかな、って思ってた人やから。
「服部くん、急になに…?」
「あんたは付き合っとる男おるやんな。きっかけはなんや?」
そう私に問いかける表情は真剣なような…
でも少し照れてるんを隠してるような、そんな顔。
「もしかして、和葉ちゃんにいつどうやって告白しようか悩んでるん?」
「は?な、なに言うとんねん…、別に、和葉は関係ない…」
「もうええやん、ここはそういうの誤魔化さんほうが話しやすいで!
え、なに、服部くんみたいななんでも出来る人が、そんなこと悩むん!ほんまに!?」
「うるっさいなぁ。日誌…日誌を書けや。オレんとこはもう書いたで」
「ごめん、決して茶化してるわけやなくてな」
嬉しいねん。
高校生探偵やなんやと騒がれとっても、
普通の17歳の男の子なんやな、と思ったらほっとしたん。
今日、週番最後の日。
服部くんと週番で、ラッキーやな。
「ほんで、なんで今、和葉の名前が出たん?」
え?
いやいや、そらもうだってな……。
「服部くんが和葉ちゃんを好きって、たぶん、みーんな知ってるよ。
…和葉ちゃん以外?」
「はー?なんでや!」
「なんでって…。服部くん、ほんまに探偵?」
「探偵や」
そこは自信満々に答えるん。
「話を戻して、さっきの質問やけど…」
「あぁ」
「ロンドンのビッグベン?の前で告白したりされたりする高校生って、あんまりおらんと思うねん」
「まぁ、そらそうやな」
なんでロンドンなん、例に出したんかは私にはわからないんやけど…。
服部くん、案外ロマンチックなところあるんやな。
「好きな相手からやったら、場所や状況は関係ない思うんよ」
「好きな相手から、なぁ…」
そもそも、服部くんは、和葉ちゃんが自分のことを好きだって知ってるんかな?
そこ自信あっての悩みなんやろか?
2人が両想いなんは、もう学校中の誰もが知ってる気するけど、
もしかしたら2人だけはそれを知らない可能性のが大きいんじゃ…。
あかん、にやけてしまいそうなんを必死で堪えながら目線を日誌に向ける。
「いつでも言えるくらいずっと一緒におるのに、そんな悩んだりするんやね。
言おう思ったら今日にでも言えるやん」
「そんな簡単な問題やないねん…」
「事件解決するより難しい?」
「難しいわ」
そうやな、難しいよな…。
私には幼なじみの距離感いうんがよくわからへんけど、
近くにいるからこそ色々悩んでしまう、てのはあるかもしれんよな。
ん?
今の関係を壊したないとか、幼なじみの距離感うんぬんやなくて、
ロマンチックな告白したいって、
単純にそれを悩んでるだけだったりする?
服部くんが?
あぁどないしよう、人に話したらあかんやろけど、
誰かに言いたくて仕方ないわ。
あかんてわかってるけど。
「まぁ、ちょっと女の意見聞きたかっただけやし、あんま気にせんといてや。
日誌、書けたんなら出しとくわ」
「あ、ありがとう」
「で、この話和葉には……」
「言わへんよ!あたりまえやん!
服部くんが適当な場所や状況では告白できないって思ってるくらい和葉ちゃんのことが大事で大っ好きなんよ、
なんて言えるわけないやん!!」
「あーーー!?誰がそないなこと言うたん!!」
「やって、今の会話だけで、伝わってしまったんー!
ごめんごめん、怒らんといてや」
はぁ、とため息をつきながらそれ以上は否定せずに日誌を手に取り席を立つ服部くんに
「ずっと一緒におったら……っ」
私も席を立って
「ずっと一緒におったら、いつかは言えると思うで!」
思わず叫んでしまった。
「そら、いつかは言わんとなぁ…」
彼は静かに呟く。
「女の私から言わせてもらうと、あんま待たせんであげて欲しいけど。
いつかは、なんて悠長なこと言うてないで!」
「わかっとるわ。お疲れさん」
「次の週番のときにまた恋バナしようなー」
「なんやねん、恋バナって。せーへんわ」
「自分から話し出したくせに。
今日和葉ちゃん稽古やった?
迎えに行くん?仲良うなー」
「…相談したんちょっと後悔しとるわ…」
そう、ぶつぶつ言いながら教室を出て行く服部くんに笑顔で手を振る。
なんだか私、今、幸せな気持ちよ。
次の週番回ってくるときには、ちょっとは進展しとって欲しいな…
なーんて、余計なお世話やったかな。
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