Time after teime

いらっしゃいませ

『好きです、ずっと好きでした。』

『好きです、ずっと好きでした。』

震える声で、でも確かにはっきり聞こえた。
放課後、平次そろそろ部活終わる頃かな、って道場に向かう途中の渡り廊下で、偶然、見てしまったドキドキの瞬間。

リアルタイムで恋が叶うのを見る機会なんてそんなにないせいやろか…。
しばらく胸の鼓動がうるさかったんは。

 


「平次ー平次平次、へーじー!」
着替え終わって部室から出てきた平次の姿を見た瞬間、思わず大声で叫んだ。
「なんやねん、そんななんべんも呼ばんでも、聞こえとるわ!」
平次はしかめっ面でこっちを睨む。

「平次、アタシ、見てしまった…」
「なんや、なんか出たんか?」
「あんな、あの、めっちゃ可愛い、隣のクラスの、高梨さんて、おるやん」
「あ?」
「男子から人気の、高梨さん!」
「あぁ、おったかな…、隣のクラスやったか」
「さっき、告白しとるん、見てしまったんよ。あんな、可愛え子が!」
「………お前、そういうことを人にペラペラ喋るなや」
「そ、そうやな…」

興奮して、思わず報告してしまった。
確かに人に軽々しく言うことちゃう、よな…。

「で?そんでどうなったん」
「え?」
「そこまで聞いたら気になるわ。相手は誰で?どうなったん?」
「相手は…サッカー部のキャプテンの先輩で…」
「あー雰囲気工藤に似てる人な」
「似てるかな…?
そんでな…、お…オレも。って……」
「ほー、よかったな。めでたしめでたしか」
「オレも。って…」
「わかったっちゅーに!なんでお前が赤くなっとんねん!」
「やって、めっちゃ、ドキドキしたんやもん!」
思わず早口になるアタシを見て、平次は笑う。
「よーわからんなぁ」


アタシはまだ、そういう、恋が叶う瞬間ゆうのを…経験できてないから
あぁ、あんな風なんやな、って感動してしまったん。
そんな、笑わんでもええやん。アホ。

 

「服部先輩、遠山先輩お疲れさまですー」
2人で自然に並んで歩くのを当たり前のように見送る剣道部の後輩に、
「お疲れさま」と平次の代わりに手を振ると自然に笑みがこぼれた。

恋が、叶ってなくても、こうして当たり前のように平次の隣を歩けること…
幸せやな、って思ってはいるんよ。
…でも
幸せに思いつつも、もう一歩、先に進みたいなぁ、って、
毎日そんな気持ちよ。

 

「好きです、」

「あ?」

「ずっと、好きでした。」

「………」


「…って、言うてたん!高梨さんな」

「あ、あぁ…」


校門を出てしばらくして、会話が途切れた瞬間に、何気なく言うてみた言葉。
今、この数十秒が、スローモーションみたいにゆっくり流れた気がした。
他人の言葉として口から出すのは、そんなに難しいことではないんよね。


さっきの彼女みたいに少しうつむいて顔赤くして、
好きやって伝えられたら
平次はなんて言うてくれるんやろ。

『好きです』なんて、あらたまった言い方なんせんで
いつかのあの日言うたみたいに
『めっちゃ好き』って。
『ずっと好きでした』もなんか、気色悪い気するけど
いつから平次を好きなのか、は、知ってもらいたいな。


そんな想像をしつつも、
この関係が壊れてしまうんやったら、そんなことは言わなくてもいいのかもしれへんな。って
結局いつも、そんな風に思ってしまうから
伝えたいことはいつまで経っても伝えられないまま。


「好きな人に、ちゃんと、気持ち伝えられるって、ええよな…」
深い意味はないねん。
自然に口から出たアタシの言葉に、
「せやなぁ」
平次は同調する。意外やな。

平次にも、そう、伝えたい人、おるんかな。
それは普段あまり、考えんようにしてること。


「なんや、まだ興奮しとるんか」
うつむいて、足取り重くなってたアタシに平次が声をかける。

「え?あ、ちょっと…」
「お前、他人の告ったり告られたりを見てそんなんなっとって、自分がそうなったときはどないすんねん」
「え?自分て?」
「…なんもないわ」

告ったり告られたり?
そんな予定、特に、ない、けど…。
…ないやんな?

ちらっと平次の横顔を見て、すぐに目を逸らす。


「あー、ほんまに可愛かったなぁ!
あんなん言われたら、どんな男でもイチコロやわ」
「…さよか」
「あの台詞、頭から離れんくなってしまったし!
『好きです、ずっと好きでした』『好きです、ずっと好……』」

「やめろや!
心臓に悪すぎるわ!!」
「え?なにが?なんで?
平次が言われたわけやないのに」

平次の顔を覗き込むと、少しだけ赤くなってる気がして…照れた顔も可愛えな、と思いながらも
照れてる理由はアタシにはわからない。


「…もうええわ…。
ちょっとお前静かに歩けや…」
「え?なによ?ちょっと平次…!」

急に、少し歩く速度を速めた平次に小走りで付いていく。


そうやな、いつかは、ちゃんと、
自分の言葉で自分の気持ちをー…。
胸に小さく決意を抱いて。

 

++++++++++

おんなじような話前にも書いてた気がします…^^;
ラストがうまくまとめられなくて、ちょっと時間をおいていたんですが
結局まとめられないのでそのままあげてしまいました。
人の言葉だとしても和葉ちゃんが『好きです』なんて言ったら
平次心臓バクバクだろうな、って思います(*^_^*)
 
2015/09/28 UP

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