Time after teime

いらっしゃいませ

Liar sentimental

「好きやない」
「え?」
「アタシ別に、平次のことなん好きやないから」


**********


「なんや、寒なってきたなぁ。朝も起きれんようなってきたし」
「せやから、アタシが、起こしに行ってあげてるやん」
「ハイハイおおきに感謝してますー」
「なんやその棒読みは」

今年は、いつもより寒くなるんが早い気がする。
3カ月ぶりに見る平次の学ラン姿にちょっとだけドキッとしつつも、いつもと変わらない態度を保つ朝。
平次と一緒に、歩く朝。

「…平次、アタシ今日、千香子たちと一緒に帰って寄り道してくから、先に帰ってや」
「あぁ。わかったわ」

…ほんまは、約束なん、ないけど。
ウソばかりやな、アタシは。
平次は気づいてないと思うけど、そこからの道のりは少し、言葉が少なくなった。


「服部先輩、おはようございます」
「オレ?…すまん誰やった?」
「あ、いえ、私が勝手に知ってるだけなんで」
「あぁ…」
校門を入ってすぐ、声をかけてきたんは可愛らしい後輩。

「先輩、ちょっと話があるんですけど、今日の授業後あいてますか?」
「話?今やとあかんの?」
「ちょっと……」

「あ、アタシ先に行ってるから」
「あ、おい、和葉…!」

少し足早に、2人の元から去って昇降口に向かう。
さすがに、鈍感な平次でも気づくやろ。
赤い顔してもじもじしながら、話があるなんて、もう、用件告げとるようなもん。

それは、アタシが絶対、平次に出来ない話。

 

彼女に呼び止められたんは、昨日の昼休み。
体育の授業のあと、更衣室から教室に戻る途中の渡り廊下で、
「遠山先輩」
聞き慣れない、可愛らしい声に振り向いた。

「アタシ?なに?」
「遠山先輩、服部先輩とは付き合ってないんですよね?」
「えっ…」
「彼女なんですか?」
「………彼女……なんかやない。
ただの、幼なじみや…」
「好きなんです」
「…え…?」
「言うてもいいですか?服部先輩に」
「…そんなこと、なんでアタシに聞くん?」
「遠山先輩も同じやと思って」
「ちゃうよ…。
好きやない」
「え?」
「アタシ別に、平次のことなん好きやないから」
「……そうですか。
へんなこと言うてすみません」

「明日の授業後、服部先輩と2人にしてくださいね」そんなことを言いながら、去っていったような気がする。
ゆるいウェーブがかった長い髪をふわふわ揺らして、少し丈の短いスカートからは白くて細い足。
顔も声も、素直な態度も、全部可愛い。

「あんな子に好き、言われたら、平次悪い気せんよな…」

悔しさなのか不安なのか、よくわからん感情やけど、
自分が可愛くない顔してたのはわかる。


「付き合ってるんですか?」
昔から、よう、聞かれてきたこと。
「ちがう」と答えるたびに、悲しい気持ちにはなってたけど、
それはほんまのことやから、仕方ないと自分に言い聞かせてきたん。


「好きやない」
そんな嘘をつく苦しさよりは、何倍もマシやった。

なんで、あんなことを言うたんやろ…。
自分で自分の気持ちを、殺してしまった気がして苦しい。


平次に好きって言える女の子は、ぎょうさんいてるのにな。

今さらあらためて思うことでもないけど、気持ち隠して嘘ついて、
だってそれでも、平次のそばにはおれたから…。
そんなアタシはすごくズルイ。
そんなアタシを牽制したくて、わざわざ、言うてくるのかもしれへんな。

平次はあの可愛い後輩に告られて、その想いに、なんて応えるんやろ。
毎度毎度、彼女でもないくせに、好きって言葉すら言えへんくせに、
そんな心配ばかりは相変わらず。


**********


夕方、ひとりで歩く通学路。
いつもより足取りが重くなる。
ただ隣に平次がいないだけやのに、なんでこんなに景色が違うんやろ。

こんな風に浸るんは、アタシらしくないかもな。


「和葉」

下を向きながらとぼとぼ歩いて、平次のことを考えながら…
そんなアタシが
今一番、聞きたい声がして、足を止めて振り返る。

「平次、なんで…?」
「お前帰るん?約束あるんやなかったんか」
「あぁ、友達な。急にドタキャンされてしまったから…今日はなんもなくなったん」
「なんやそれ。ほんなら待っとけや」
…こっちが、なんやそれ。や。

待っとけ?
なんで一緒に帰るのがあたりまえみたいになっとるん。
平次がいつもこんなやから、このままでおれるなら好きなんて言わんでもええ、って、
逃げてばっかりなアタシになるん。

そうや。全部、平次のせいや。
こんな、苦しい気持ちもせつない気持ちも、
全部全部―…。


「平次、話あったんやろ?今朝会った子と」
「あぁ…話な。すぐ終わったわ」
「そうなん?」
「ほんで、お前が帰るん見えたから追いかけてきた。
…ちゅーか、トロすぎて普通に歩いて追いついたわ」
「……またトロい言うた…。
…可愛い子やったな」
「…一般的にはそうなんかな」
「平次のタイプやなかった?」
「タイプなぁ…」
「……髪の毛もふわふわで、可愛かったやん」
「オレは……馬のしっぽみたいな頭のがええわ」
「え?」
「なんもない」
平次は時々、聞こえんような声でなにか言うから、聞き逃すん。
もしかしたら、大事なことを言うてるかもしれへんのに。

「にしてもお前暗いなぁ、顔不細工やで」
「な…っ。失礼やね!
秋やし…ちょっと、センチメンタルな気分に浸りたいときもあるねん」
「センチメンタルー?
似合わんわー。気色わる」
「なんやの!平次にはわからへんねん!」

そう、平次にはわからんのや。
アタシの、ほんまの気持ちは。

言わなきゃわからない気持ちは、
胸の中にずっと秘めたまま。


「秋、ゆうたら食欲やろ和葉ちゃんはー。なんか、食うてくか?」
「あー腹立つ。平次の奢りやったら行くわ」
「遠慮もなく高いもん食いまくるなや」
「え、ほんまに奢ってくれるん?わーい」
「そんで急に元気になるんか、お前は。単純でわかりやすいな」
「わかりにくいところもあるんやで」
「さよか」


さっきとおんなじ道やけど、
景色がまったく、変わった気がする。
平次の声が聞こえて平次の顔見られて、
ただそれだけで涼しい秋の風もえらい心地よく感じるん。

そうやな、やっぱり、平次の隣におるときは
センチメンタルは似合わへんな。


「…なんて言うて断ったん…?」
「あ?教えへんわ」
「かわええ子やったのに、もったいないな…」
あ。また、心にもないことを…。
「オレだけ彼女なん作ったら、お前寂しいやろ」
「…そうやな…。悔しいし寂しいな…」
今のはちょっと、本心。

「悔しいてなんや」
笑いながら、「寂しい」の部分はスルーするん。

 

平次。
誰のもんにも、ならんでほしい。
ずっとここにおって。

いつか、伝えられたらいいけれど、
それができんかったとしても…。
名探偵のアンタなら、不可能ではないんやない?


ここに、アタシの隣にずっといて

好きやない、なんて、アタシの、
人生でいちばん大きな嘘を見破って。

 

++++++++++

部活は今日は休みってことで。(なんて都合のいい!)
『センチメンタルな嘘つき』の英訳を調べてタイトルつけたんですが、
合ってるんでしょうかこの単語…。
 
2014/09/18 UP

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