Time after teime

いらっしゃいませ

優顔

繋がれた手の、指の先から、熱くなってくるのがわかる。
ちらちらと、平次の表情を伺いながら時々斜め右を見上げると…その肩の向こうに放たれる光に集中できない。
あと何発くらいあるんやろ…離さなあかん時間がちょっとずつ近付いて来てるんやな。

「にしてもすごい人やなー。毎年のことやけど」
「カップルばっかやね…」

『アタシらは違うけどな』その言葉を、口にはしないで飲み込んだ。
きっと、すれ違う人たちにはこんなアタシらだって恋人同士に見えないこともないんやろな。
敢えて否定せんでもええと思った。

実際は、
今年もただの幼馴染として、夏を過ごしているアタシたち。
今こうして、手を繋いでいるんも、そうなる状況に陥ったからで…
人ごみやからはぐれてしまう、って、そんな、なにか理由でもなければこの手が触れ合うことなんてないん。
とはいえ、手を繋ぐのなんて何度もしてきたことなのに、いちいちドキドキするアタシは一体なんなん?

アタシばっかりドキドキして、
アタシばっかりあたふたして、

アタシばっかり花火やなくて平次を見てる。


空に咲く輪が水辺に落ちていく。
その光が眩しくて目を細めても、確かに映るものがある。
アタシばっかりが見てる平次の横顔。
光の先を見つめるその顔は、すごく、優しい気がするん。

「キレイやね…」
「あぁ」
「春が桜なら、夏は花火やな!」
「あ?」
「春は団子で、夏はかき氷」
「なんや、食いもんの話か」
「なぁ平次、かき氷食べたない?」
「かき氷より、たこ焼きやな」
「あとー、クレープとりんご飴と焼きそば!」
「いっぺんに食いすぎや」
「花火終わってからでもええからー。平次の奢りな」
「なんでやねん」

恋人同士でも、こんな会話をするんかな。
想像するとちょっとだけ、頬がゆるんでしまう。
けど、平次はそんなことは、きっとこれっぽっちも思ってないよな。


「…隣におるのが、アタシでごめんな………」

音に消されるんを狙ったわけやないけど、

「はー?なんか言うたかー?」

やっぱり、聞こえないくらい小さな声やった。


光も音もやまない。
打ち上がる花火は「キレイ」を連発させる。
その声に紛れさせて、今なら、言えるかもしれん。
そう、思ったから、自然に声が出た。


「平次、………好きや………」

今度は狙ったん。
バーンバーンと、音が連打する瞬間を。

「やから、聞こえへんて!
もっと近くで、はっきりしゃべれや!」
「なんもない!!」
聞こえたら困るんよ。

だってアタシは来年も、その先もずっと、こうして一緒に花火が見たいん。
それが叶うなら、幼なじみのままでもええ。
そんなのきれい事なんかな、そうや、本心はー…

 

「手、繋いだままでええの…?」
「あ?」
あ…アタシ、何言うてんのやろ。
普段言えないようなことを言えてしまうのも
時間かけて着付けた浴衣と、この夜の空気のせいなんかな。


「そうやなぁ、和葉ちゃん、迷子になってまうからなー」
「なんやそれ、子ども扱いして!」
平次がまた、笑いながら茶化す。
その顔は、やっぱり―…。


…それでも、ええよ。
恋人じゃないから、
ただの幼馴染やから、
理由がないと手なんて繋げへんくて。
迷子になるからはぐれてしまうから、そんな子どもみたいな理由でも
人ごみのせいにしても構わへんから
離したくない。近くにいたい。離したくない。


音に消されてしまう「好き」なんて言葉じゃとても足りない。
この気持ちは、どんな言葉にもできないん。
繋いだ手からも、全部は、伝えられないんよ。

 

「平次、きれいやね、花火…」
「もう終わりやな。ラスト連射残っとるけど」
「今年の夏も終わりって感じやな…」
「夏休みの課題も終わってへんのに、何言うとんのや」
「あとちょっとやもん!」


空に咲く輪が水辺に落ちて、夏が終わっていくみたいで、なんとなく寂しい。


来年の今頃は、この想いが叶って恋人として隣にいられるかな。
それとも花火が消えてくようにこの恋も、静かに終わってしまってるんかな。

自分自身への問いかけに、アタシは、
都合のいい答えを当てはめてしまいそうになる。

だってー………。

 

触れ合う手を少しだけ強く、ぎゅっと握りながら
クライマックスのスターマインが光放つと同時に
また、平次には気付かれないように、花火を見るふりをして
右斜め上を見上げた。

気付かれないように、見たつもりやったけど
平次もちらっとこっちを向いた。
目を逸らすことはできず、一瞬ときが止まったみたいやった。

平次、優しい顔をしてた。

 

++++++++++

『金魚花火』 ♪大塚愛より
一緒に花火大会に出かけて、手を繋いで…。
でも、ただの幼馴染なんです。
そんなことを考えたら、ちょっとせつない気持ちになってしまいます。
お話は、この曲ほどせつなくはならなかったです^^
「どんな言葉にもできない 一瞬うつるの あなたの優顔」
ここのイメージだけかなぁ(*^_^*)
私、この曲大好きなんです。
 
2014/08/07 UP

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