Time after teime

いらっしゃいませ

そんな帰り道

夕暮れ時。
どの部も片づけを終え、部室の周りには「彼氏」やら、「彼女」やら。
待ってる人と待たせてる人。
アタシも今、待ってる人の一人なんやけど、「彼氏」ではなく、
待ってるのは「幼馴染」。
彼氏待ちの集団に入ってても、なんの違和感もない感じがするんやけど、
それがかえってせつなく思えるときもある。


「和葉―、服部くん、ちょっと前に終わってたから、もうすぐ来ると思うよ」
「ほんま?ありがとう」
友達に声をかけられ、あたりまえのように答える。
なに、彼女気取りしとるん、アタシは。
でもそんなん、もう、ずっと、昔からやから…。

「毎日一緒に登下校して、仲良しやね、相変わらず。
なんで付き合ってないん?」
「そ、そんなんじゃないんよ…!
ほら、アタシ送ってくんは…責任感みたいなもんや、小さい頃からずっとそうしてるし…」
「ふーん…。
ほんなら、お互い、
送ってく相手や送ってもらう相手が出来るまで、ゆうことか」
「え…」
「ごめんごめん、意地悪言うた。
あたしも彼氏待ってるから行くな、また明日ね」
「うん、また明日」

言われた言葉の意味を、考えてた。
いつまで、こんな関係、続けられるんやろな…。

 

「和葉」
名前を呼ばれて、振り返る。
「平次…」
「なにぼーっとしとるん。遅かったか?」
「ううん、教室で課題しとったし、そんなに待ってないよ…」
「帰るで」
「うん」


暗くなっていく通学路を、二人で歩く。
それももう、何年も前から変わらないこと。
手を繋ぐわけでもなく、腕を組むわけでもなく、
少しだけ高い位置にある平次の肩越しに茜色の空をぼんやり見つめながら
もし、隣にいるのがただの幼馴染ではなく恋人やったら、どんな風に甘えられるんやろうかと
しょうもないことを考えたりする。

昔はそんなに、肩の位置も変わらんかったのに
一体いつ、アタシよりも高くなったんやっけ…。


「なんかしゃべれや。沈黙は嫌いや」
「…そんなん言うなら、平次が話してくれたらええやん」
「お前いつもくだらん話するやろ。今日はなんかないんか」
「平次こそ…おもろい話してや」
「してや、って言われてする話題もないわ」

小さい頃から、飽きるくらい一緒にいて、一緒に歩いて
いつもいつも、何をそんなに会話してたんかな…。
会話なんなくてもいいって、思ったこともあったな。


「あ…」
「なに?」
平次がなにかを見つけたようで急に足を止め、アタシもその視線の先を見る。

「かわええな…」
思わずアタシも呟いてしまう。
隣同士並ぶ、二つの背中に赤と黒のランドセル。
繋がれた手と手、笑い声、ちらっと見える横顔からでもわかる愛らしい微笑み。

こんな時間に学校帰りかそれともどこかへ寄り道してたんか…。
近所に住んどるんかな、もっと小さい頃から一緒におるんかな、
この先も、一緒に成長していくんやろか。
短い時間にいろんなことを想像してみる。

平次は、あの子どもたちを見つけて…なにを思って足を止めたん…?


「工藤と姉ちゃんも、あんな感じやったんかな…」
「え?なんで工藤くんたちが出てくるん?」
「幼馴染やんけ、あいつら」
「そ、そうやけど…」
そんな、遠く東京の二人を思い浮かべんくても、
もっと身近におるやろ、幼馴染の二人が。

「……」


平次、アタシらも、昔はああやって、手繋いどったな。

そんなこと、もちろん口には出せへんのやけど。


偶然見つけた可愛い二人に、自分らの幼い頃を重ねて見てる。
なんも言わず、あたりまえのように手なんて繋げとったのに、
いつから、手を繋ぐのに、理由が必要になったんやろ。

また、その手に触れられる日が、いつかは来るんやろか―…。


「―おい」
「え、あ、なに…?」
「なに、やなくて…なにぼけーっとしとるん。
そんなちんたら歩いとったら、いつまで経っても家に着かへんやんけ。
ほんまにトロいやっちゃなー」
話しかけてきたかと思ったら、またこんなん。
こういうところばかりは、昔からちっとも変わらへんな。
「そんなに遅くないやろ!
そんなん言うならさっさと自分のペースで先に行ったらええやん!!」
「オレはずっと自分のペースで歩いとるわ」
「え…」

なんで…だって、
トロい、言うたやん。
そう、なのに、おかしいよ。
なんで、歩く速度に差が出ないん。
さっき並んでた赤と黒のランドセルみたいに、真横に、並んどるんはなんでなん…?
幼い頃よりずっと、平次の歩幅は、広くなったはずやのに。


「平次もけっこう歩くの遅いよな」
「は~?悪かったな」

『お前に合わせて遅くしとるんや』 
って、言うてくれたらいいのに。
いつもみたいに、荒い口調で。


いつから歩幅を、歩く速度を、合わせてくれるようになったん。
アタシはどうしてそういうことに、いつもすぐには気づけないん―…。

 

当たってしまったかのように、こつんと、平次の手に触れてみた。
平次は気付いてないんか、気付かないフリをしてるんか、
何事もないような顔してる。
自分でそんなことしといて、アタシは、胸がドキドキ鳴るんを止められないのに。

くやしいなぁ…


「和葉」

平次がアタシのほうを向き、名前を呼ぶ。
このタイミングで?と、ドキドキがさらに高まる。

「にしてもお前、もうちょいはよ歩けんのか」
…あぁ、そんなこと。
さっきとおんなじ話やん。
「平次のペースに合わせてあげとるんやー」
「なんやそれ」

 

歩幅を広げて、速度を上げて、自分のペースで
歩いてくれたってええんよ。
アタシが
遅れんように、ちゃんと付いて行くから。

平次に、付いて行くから。


そんで、真横に並んで隣同士、
いつかはその手を自然に繋げる日が…
平次のほうから繋いでくれる日が、来たらいいと思う。
心からそう思う。

そんな、いつもの帰り道。

 

++++++++++

あの二人別に一緒に登下校なんかしてないよ!なんて言われたらすべておしまいなんですが^^;
してるよね!一緒に登下校!(←決めつけ)
迷宮で二人手繋いでましたね。絶海で平次から手繋いでましたね。
登下校中も普通に手を繋いで、周りに見せつけちゃえばいいと思います(*^_^*)
 
2014/05/13 UP

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