平次、もうすぐ、今年が終わってしまうよ。
12月27日。
年明けまで、あとわずか。
アタシは今年始めに打ち立てた目標を、まだ達成できてないん。
『今年こそ、この気持ち、伝えてみせる』
意気込んで、決意をした。
「あ、平次?今なにしとった?掃除か?」
「そうや、部屋の掃除や。なんやった?」
「アタシもな、掃除しとったんやけど、アンタに借りた本が出てきたん。」
「あーなんか貸しとったか?ほんなら取りにいこか。」
「えーよ!アタシが持って行くから。」
電話越しやとやっぱり顔が見えんで寂しいから、なんでもいいから会う口実が欲しかったん。
もしかしたら、今年、アンタに会う最後の日になるかもしれん。
平次の家まで一人で歩く。
今年1年を振り返る。
高校生になっても、
春も、夏も、秋も、冬も、
一緒やったね。
けど、肝心なことが言葉にできんで、いっつも憎まれ口ばっかり叩いて、
二人の距離は縮まらないまま。
年が明けてすぐ、一緒に行った初詣で、肩が触れそうなくらいの位置に立って、
願ったことはただひとつやった。
アタシはもうあと何回、おんなじことを願うんやろか…。
そんなことぼーっと考えながら、下を向いて歩く。
聞き慣れた声に顔をあげる。
「遅いやんけ」
「え、平次…?なんで外におるん?」
「あ?掃除しとって息が詰まったから外の空気吸いたなっただけや。」
「そうなんや。どんだけがんばって掃除しとるん。」
「笑うなや。」
「あ、これな、借りとった本…。」
「ちゅーかそれ返さんでええわ。
オレ1回読んだらそれでええねん。」
「え、ほんまに?アタシ1回じゃよくわからんかったから…何回も読まな、思うとってん。」
「せやろ、お前の頭じゃすぐには理解できんやろ。」
「…失礼やな。
けど、それやったら電話で言うてくれたらわざわざ来ーへんかったに。」
「ちったぁ歩いたほうがええやろ。正月また食い過ぎて太るんやで。」
「なんやそれ!」
まぁ、ええんやけど…。
本返す、なんて口実で、
ほんとはアタシ、ただ、
アンタの顔が見たかったん。
もしかしたら、今日が、今年会える最後の日かもしれん。
1年前に誓ったこと、
今、実行せんと…。
「和葉?」
「あ、あのな、平次…」
「なんや?」
「アタシ…」
好きや。
会いたかったん。
来年は、できれば、ただの幼馴染みやのうて、
恋人として、一緒にいたい。
「どないしたん?」
「…」
あかん…。
そんなこと、言えへんわ。
今まで、言えんかったのに、なんで今言えるん?
無理やろ。
せめて。
この言葉くらいは言えんもんかな…。
来 年 も ず っ と 、 一 緒 に い た い
「なぁ和葉」
「え、な、なに?」
急に声をかけられ、出そうになった言葉を飲み込む。
「元旦は、オレんち来るやろ?」
「え、あ…うん、来てもええん…?」
「なに言うとるん。毎年のことやん。
で、初詣はいつにするん?三ヶ日は混むでな~。」
…。
あたりまえのように、言うてくれるんやね。
平次はすごいな。
神様やないのに、アタシの願い、叶えてくれるん。
いや、アンタにしか、叶えられないんやな、アタシの願いは…。
もうすぐ、今年が終わるよ。
やり残したことはない?
自分から、言うことはないん?
「なぁ平次!」
「なんや?」
「できれば…31日の夜から…一緒におりたいんやけど…。」
これがな、今のアタシの精一杯やねん。
「あ?」
「や、な、アタシ神社で新年迎えてみたいん。
けど、一人で行くん、こわいやんか。
そりゃ、友達誘ったらええかもしれんけど、今ちょうどアンタが目の前におるし…。」
「なんやねんその理由は!」
「ごめん…。」
「しゃーないなぁ。ほんなら迎えに行くで、31日の11時半に。
そんでそのまま初詣やな。
なんだかんだで寝とったりすんなや。」
「うん…うん…!」
来年もきっと、平次の横で、アタシは同じことを願うん。
触れるか触れないかの位置にあるその肩が、ずっとずっと近くにあるように、と。
平次、好きやで。
この言葉は、来年に持ち越しやね。
ちょっとだけ、自分が情けないけど…。
来年こそ。来年こそは…!
「平次、一緒に、カウントダウンしような。」
「おぅ。」
1年の終わりに、平次の顔を見て、幸せやって実感する。
年が明けて、真っ先に、
その目に映るんがアタシやったら、
来年もきっと幸せな1年になるよ。
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