『工藤』って誰？
あんたの口から最近、その名前が出るようになった。
今まで、女の子の名前なんて聞くことなかったから、あたしはな、
正直、動揺しとる。焦っとる。
心のどこかで自惚れてたんよ…
平次、あんたにとってあたしは
特別な存在なんやって。
欲を言えばきりがないね…。
ずっと一緒におって、
毎日会えて
喧嘩もできて
小さい頃からの思い出だってある。
自分で勝手に
それが絆やって決めて、
あんたとの仲は絶対に誰にも裂けん、って
あたしは自信持っとったん。
けど最近、そんなんほんまにあたしの勝手な思い込みやったんだって、はっきりわかった。
工藤、って名前を口にするようになってから、
なんだかあんたは楽しそう。
イキイキしとる。
そう、まるで
事件解いたときみたいに。
そういうあんたの顔が、あたしはやっぱり好きなんよ…。
これ以上願ったらバチがあたると思うから、
もう、望みは言わへん。
そう、思うのに…。
嫌なんよ。
平次が誰かのもんになってしまうんは。
その人のことを考えて、
その人のことで笑顔になって
その人のことで傷ついて
あたしの知らない顔まで、いっぱい見せるんは。
もうあたしのこんな恋心に、
気づくことさえなくなってしまうやろ…？
あたしが、あんたのそばにいるためには
この気持ちを、口に出すこともできんくて、
あんたに、伝わることもなくって、
だから、
きっとこの恋は
叶うこともなくて、
でも、終わることさえできないん。
近くにいすぎて、
離れ方も、
このままそばにいられる方法も、
わからない…わからないんよ、平次。
考えても、考えても、わからない。
けど、ひとつだけ、わかっとることがある。
きっと
今のあたしには
あんた以上の人はいないんやで。
だから、せめて、
アホなこと言って笑わせて、
あたしはお姉さん役で、構わへんから、
側に いてほしい。
＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋