振り向くたびにゆらゆら、ゆらゆら。
今時、頭にりぼんつけとるやつなん、おらへんで。
どこにおっても、目立ってしゃーないねん。
***
「なぁ平次、あたし昨日美容院行ってん。気ぃついた?」
朝、会ってすぐの和葉がにこにこ笑顔で話しかける。
「はぁ? なんか変わったか?」
「ちょっと髪の毛の量、少なくなったやろ?」
「そんなんわかるかいな」
「触ったらわかるで。ほら」
束ねられた髪はオレの目の前に。
最後に触れたんは…いつやったかな。
久しぶりに、その束を掴む。
「…触ってもわからんわ。切る前どれくらいやったか知らんっちゅーに」
「あぁ、そっか…もっと量、多かったんやで」
「馬のしっぽもこんな感じなんやろか…」
「ちょっと、馬のしっぽとか言わんどいて」
「似とるやん」
馬のしっぽ見るたびに、思い出すで、オレは、お前を。
…まぁ、馬のしっぽ見るよりお前のしっぽ見る機会のが多いんやけど。
「…そういや、担当してくれた美容師さんな、めっちゃイケメンやったんよ!
髪の毛触られただけでえらいドキドキしてしまったわぁ」
「あぁ?触らせたんか、髪を」
「あたりまえやん。美容師さんやで?何言うてんの」
「…」
「え、平次なんか怒ってるん?」
…なんでやろ。
えらいイライラするわ。
美容師がイケメンやったとか、オレに言う必要あるんか?
そんでなんやて?イケメンの美容師が
その髪に触れたんやって?
なんでそんなことで、イライラするん、オレは。
「しっぽっていえば…昔はよく平次にひっぱられたよな~。」
…そうや。
小さい頃、オレはそのしっぽを追いかけて、
逃げる和葉を追いかけて、
追いついて、そのしっぽを捕まえられたら、なんでか嬉しくてしゃーなかった。
いつからやった?
追いかけんく、なったんは…。
考え事をしながらの足取りは、少し、重くなる。
「平次~、なにしてんの?」
オレより前を行く和葉が振り向いて、髪の束を揺らす。
それからまた、隣同士。
あぁそうか…。
追いかけんくなったんは…、
その必要がなくなったからや。
視界に入る距離に、いっつもそのしっぽがあるから。
近くにあるから、
かえって、触れられなくなってしまってたんやな…。
「お前、今度から美容院行ったら女の美容師指名しろや」
「は?なんでや?」
「男に気安く触らせんな」
「え?え? 平次、それ、妬いてるってこと?」
…は?
「アホなこと言うな! なんでただの幼馴染のお前に妬かなあかんねん!」
「そんな怒らんでもええやん!冗談やわ!」
「ちゅーか別に美容院なんか行かんでええ。
ずっとその髪型でおったらええわ。わかりやすいで」
「…平次、なに言うとるかわからんよ…。
別に髪型変えるつもりもないし」
…それを聞いて、なんでか、安心した。
オレは、いつでもどこでも無意識に、
馬のしっぽみたいな髪の束を探してしまってるん。
せやから、いつまでも、そのままでおって欲しい。
小さい頃、今日のりぼんは赤や、黄色やと、はしゃぎながら話しとった、
そんなお前でずっといて欲しいんや。
そんで、触らせんなや、他の男には。
「平次、これはポニーテールっていう髪型やからな。
馬のしっぽとちゃうで」
「訳したら馬のしっぽやないか」
「…訳さんでええねん」
++++++++++