Time after teime

いらっしゃいませ

あなたの、夢の中


うたた寝に恋しき人を見てしより 夢てふものは頼みそめてき


~うたた寝で恋しいあの人を 見てしまってからは
夢なんて儚いものにも 期待するようになりました~

 

「えー小野小町のこのうたやけど―…。
昔、夢に誰かが出てくるのは、その人が好いていてくれるからやと考えられてました。
小町も、好きな相手が自分を好きやから夢に出てきたのだと解釈し、夢を頼もしく思うようになったのかもしれません。
せやから小町のうたには夢をテーマにしたものが多く存在しー…」

 

4限、古典。
いつもあたしが一番眠くなる時間なんやけど、今日は…
じっくりしっかり、先生の話を聞いてしまっている。

『なんや、ロマンチックな話やな…』


あたしは、今朝から気分がよかった。
平次が夢に、出てきたから。

それだけで、今日1日めっちゃ幸せに過ごせてるんやけど、
それが今の話でいうたら、平次が夢に出てきたんは、平次があたしのことを好きやから?

昔の人は、えらい都合のいい解釈するんやな。
そんなこと、あるわけがないのに。
夢に出てくるんは、自分が相手のコト想うてるからやろ?
あたしもそんな都合よく考えられたらええんやけどな…。


「それでは最後に、もう一句紹介して今日は終わりにします」


**********

「なぁ和葉、服部くん4限いなかったけど…どうしたん?」
「あぁ、調子悪いゆうて保健室行ったんよ。
昨日また帰り遅くなったみたいやから、ただ眠かっただけなんとちゃう?」
「また事件かー?好きやなあの人も」
「事件も平次んところ寄ってくるん。両想いなんよ!」

昼休みになっても平次の姿は教室にはなかった。
…平次はさっきの授業、いてなかったん。
聞いてたところで、恋のうたになんか興味ない思うけど。

「様子見に行ってあげたら?次数学やん、出た方がええやろ」
「そうやね…。いつまでサボってるん、て起こしに行ってくるわ」

ほんまに、あのアホは。
あたしに毎時間授業中寝るな寝るな、うるさいくせに、自分は保健室のベッドの上でなに堂々とサボっとるん。
ちゃんと授業聞かんと、困るんは平次なんやからな!
優しいあたしが、起こしにいってあげるわ。


「先生―堂々とサボってるアホ迎えに来ましたー」

と、勢いよく保健室の扉を開けたんやけど…
「先生いてへんやん…」

奥のカーテン、ひとつだけ閉まってる…あれやな。

「ちょっとあんた!お昼食べんでええんか!?」


・・・・・・。

平次の寝顔なん、別に見飽きてるんやけど…
つい見入ってしまうんは、あたしが平次を
好きやから、なんよね…。

あまりに気持ちよさそうに寝てるから、起こすのも悪い気するわ。
けど次数学やで。ちゃんと出た方がええよ。

しゃーない、無理にでも起こしたるか…。
そう、思った瞬間やった。


「和葉…」


え?


「なに?平次、あたしのこと呼んだ?」
「……」
「…寝言…?」


あたしの夢、見てるん?

あたしあまりにもあんたを好きすぎて、夢の中にまで忍び込んでしまったん?


「起こすん、やめよか…」
だって、今起こしたら…途中で終わってしまうやん。
あたしの、夢が。


「…お前はほんまにトロいな。」

「は?」
せっかく、いい気分に浸ってたのに…、どんな夢見てるん?
…アホ。

でも、どんな夢でもええわ。

 

なぁ平次、あたしな
夢にまで見てしまうほど、あんたのこと好きなんよ
ときどきせつなくもなるけど、その気持ちを、うまく言葉にはできんのやけど
いつか
あんたも同じ理由で、あたしの夢、見てくれる日がきたらいいな


「このまま、寝顔、見てようかな…。」

 

**********

「うわっ、寝すぎたわ!5限始まってるやんけ!
…って和葉!?」


なんやろ、平次が呼ぶ声が聞こえるわ…。
今度は寝言やないん…?

「お前なに寝とるん!起こしに来たんちゃうんか?
おい起きろや、この状態でオレひとりで教室戻れへんやろ」


平次の手に、触れられてる感覚がする。
夢にしては、リアルやな。

夢にしては…。


「あれ、平次、起きたん…?」
「起きたん、やないわ。お前のそのしっぽの先が顔にひっついてきよって
こそばゆーて起きたんや。
男が寝てる横でよー寝れるな、お前は」


あぁあたし…寝てしまったんや。
平次の寝顔見てたら、いつの間にか。

「だって…平次いい夢見とったみたいやから…起こすん悪いかなって…。
そう思ってたら、あたしも眠くなってきたん。お昼食べたあとやし、ふかふかの布団目の前にあったし」
「…お前はほんまに…」
「なんや?」
「別になんもないわ。それよりオレ、夢なん見とったかな。全然覚えてへんわ」
「えー覚えてないん!?寝言言うとったで!?」
「寝言…?なんて?」
「…それは…言われへんけど…。
とにかくめっちゃええ夢見てたと思うで!!」
「どうでもええわ、夢は夢やし。
4限も5限もサボってしまったっていう現実のが大事や」


そら、そうやけど…。
なんや。覚えてないんか。

平次が今見てただろう、あたしの夢。


あたしはけっこう、覚えてるんやけどな、
平次の夢、みたときは。
まぁたいてい、たいした夢ではないんやけど。

今も、うたた寝に、平次の夢見かけとったん。


「今日の古典どんな授業やった?ノート見せてや」
「ええよ。けど、あんたあんま興味ないかも」
「興味あるとかないとかちゃうやろ。テストに出たら困るやん」

今日の古典の授業。あたしにとっては、めっちゃ興味深い内容やったで。
最後に先生が言ってた『こいのうた』が頭の中に蘇る。

 

思ひつつぬればや人の見えつらむ 夢と知りせばさめざらましを

~想いつつ寝たからかしら あのかたがお見えになった
これが夢だと分かっていたら 目覚めなかったのに…~

 

夢に平次が出てきたら、
起きるんもったいないなってやっぱり思うけど
起きた瞬間に、顔が見られるんやったらそのほうがええな。


「一緒に教室入って行ったら、また冷やかされてしまうかもな…」
「まぁ…しゃーないわな。行くか」
「うん。」


夢もいいけど、やっぱり、
現実であんたと一緒におれるこの瞬間が、
いちばん幸せやもん、あたし。

 

++++++++++

『あなたの夢の中 そっと忍び込みたい』 ♪宇徳敬子より  
高校の頃、古典の授業中、辞典でこいのうたを探してはマーカーでしるししていました。
高2の古典で小野小町の短歌なんて扱ってたかちょっとあやしいですけど…。

 

2013/10/21 UP

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