Time after teime

いらっしゃいませ

幼馴染の特権

「やっぱりここやったか…。オカン心配しとったで」
「平次…探しに来てくれたん…」

なんて、言うてみたけど。

あたし、わかっとってん。
あんたが探しに来てくれるって、
信じとったんよ。

嫌なことがあったり、落ち込んだとき、
あたしが行く場所なん、たいてい決まってる。
この小さな公園のブランコもそのひとつ。

平次があたしを探しに来るときはまずここから来るのを、あたしは知ってるん。

あたしは昔から、すごくズルイ女なんよ。

だからな、あんな嫌がらせされるのも、仕方ないって思うん…。


平次が活躍するたび、それは増えていった。
いちばん多いんは、手紙。
靴箱ん中に入ってる、ベタなあれ。


『ただの幼馴染みのくせに』
『服部くんに近づかんで』

そんな、内容。
最近はネットの、地元の掲示板なんかにも書かれたりするんかな…。
平次が事件解いたりするたびに、なにかと話題になって騒がれるから、
そんときあたしのことも話題にあがるって聞いたことあるけど、
あたしは見たことないからようわからん。


そんなんはもう、慣れっこやわ。
平次人気あるし、目立つし、そんな平次にいつもくっついとるあたしの存在が目障りやって、
あたしも平次のファンの子の気持ちになればわかる。
もう慣れた。
なんとも思わん。
気にするだけ時間の無駄や。

そう、思うてたんやけど…。
今日のはちょっときつかったわ。

手紙じゃなくて、メールやった。

どっからアドレス流れたかわからんのやけど、知らない宛先からひとこと。


『服部くんになんとも思われてないくせに、彼女ヅラせんといて』

 


「帰るで」
「う、うん…」
下向いて、ブランコから降りようとせんあたしの腕を引いて、
平次が静かに言葉を発する。

帰るで、のひとこと。

何があった、とは平次は聞かへん。
もしかしたら、わかっとるのかもしれんけど…。

あたしはこういうとき、平次には言わんようにしてる。

1度だけ…。
最初に手紙をもらった、中学生になりたての頃。
あまりにびっくりして、手紙を持って平次に泣きついた。
そのとき平次は
「オレらただの幼馴染やんけ。なんでお前が恨まれるかわからん。気にすんなや」
って、手紙を破り捨てた。

あたしは平次のその言葉もちょっとショックやったけど、それ以上に…。
悲しかった。
平次がそのあとしばらく、あたしに、話しかけてくれんようになったことが。
「オレと話さんかったら、誰からも嫌われへんやろ」

そんなことを言う平次に、あたしは言ったん、

「誰に嫌われたって、あんたと話せんくなるより何倍もマシやもん!」

あたしがあまりに泣きながら叫ぶから、平次もちょっと焦ってた。
「わかったすまんて!これからは避けたりせーへんから」


あたしらはそれからも、幼馴染のまま、今日までこうしてきた。
平次のあとをおっかけてくっついて、

あたしは、平次のことを好きな女の子たちにとって、目障りな存在のまま。


あれ以来、誰になに言われてもなにされても、
平次には言わんようにしてるん…。

だってまた、平次が気にして、
離れていくことが…なにより怖いんやもん。

 

『服部くんになんとも思われてないくせに、彼女ヅラせんといて』


そんなん、わかっとるよ。
そんな、見ず知らずの人に言われんでも、
平次になんとも思われてないことなん、自分がいちばんよく知ってる。


彼女ヅラなんかしてへんよ…。


平次にはきっと、ほかに想ってる人がおるん。

きっとずっと、その人に会いたいん。


あたしだってときどき苦しい。


でもな、それでも

平次のそばにおりたい気持ちのほうが、勝ってしまうんよ。


平次に迷惑かけて心配かけて、
でもそれも幼馴染みの特権やって開き直って、

誰に嫌がらせされても恨まれても、
平次を好きな子を傷つけても、


あたしはこれからもずっとずっと
平次の優しさに甘えていたいん。


ズルくて、ごめん。


「メシ…食うてくやろ?」
「え?」
「オカンがお前の好きなもん作る言うてたで」
「そうなん?なんで?」
「知らんがな。あのオバハンに聞き。
オレが和葉探しに行く言うたら、じゃあ和葉ちゃんの好きなもの作って待ってるからって」
「そうなんや…。嬉しいな」

こういうのも…幼馴染の特権なんやな…。
幸せやな、あたし。

「腹へっとるからそない暗い顔になるんやで。
あ?お前泣いたんか?いつも以上に不細工やと思ったわ」
「アホ!!泣いてないし、不細言わんでや!」
「その暗い顔が不細工や言うてるんや。
オレが泣かしとるみたいに見えるで、笑えや」
「…せやから泣いてないって…。ほな、なんか笑える話でもしてや」
「は?そんなんないわ。
あ、この前解いた事件の話でもしたろかー」
「…うん。その話でええわ…。まだ聞いてない話やった?」

ほら来た、平次の大好きな、事件の話。

楽しそうに話す平次の顔見て、なんかあたしも笑顔になってしまうから、
平次はよくあたしが落ち込むと、事件や推理やって、話出すん。

こんな話題に飽きもせんと最後まで付き合えるの、あたしくらいやと思うで?

そんな、小さな自信だけは、いつだって持ってるんよ。


彼女なんかじゃない。
ただの、幼馴染。
でも誰より近くにおるから、時々嫌われるし恨まれる。


けどいいんよ…。
平次だけが、あたしを探して見つけて、言いたいこと言うて、笑わせてくれたら。


嫉妬されるのも、
平次があたしを大事に想ってくれてるからだって、

いつか…小さな自信が大きな自信になる日が来たら、それが一番いいんやけどな…。

 

++++++++++

和葉ちゃんを、嫌いな人もいるんだって…。
そりゃ、どんなキャラでもそうだろうけど…知ったとき
悲しくて悲しくて
こんなお話考えてしまったんです。

2013/10/17 UP

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