「なぁ、和葉のファーストキスはいつなん？」
ぶっ。
イキナリの友人からの発言に、飲んでいたジュースを吹きだしてしまった。
女子として恥ずかしいわ…。
「ちょっと和葉なにむせとるん？大丈夫？」
「大丈夫やないわ！なんなん、その質問は！」
「せやから～そのままやって」
「彼氏いたこともないあたしが、なんでキスなんしたことあるん！」
「服部くんとは？したことないんか？
幼馴染やったら、小学校の頃にちゅっ、とかなかったん？」
…え？
記憶を辿ってみるけど……
覚えがないわ。
「……。」
「あんないつも一緒におるから、もうちゅーくらいしてるんやと思ったわ～。
そうやったね、あんたら付き合ってなかったね、
た、だ、の、幼馴染やもんな。めっちゃ仲のいいな！」
「……そうや。キスなんする関係やないわ…。
でも…みんなもまだやろ？」
今、席の周りに集まってる、4人の友人。
今まであらためてキスの話なん、したことなかったけど…
「あたしは中３やったかな」
「あたしは去年」
「あたしな、実はきのう…」
「き、きのう!? 最近できたゆう他校の彼氏か！？」
「そうそう」
な、なに？
ちょっと待って…。
4人中3人…？
「和葉ぁ、あたしもまだやで」
「ほんまに？よかった～～あたしだけやと思った…
けど中３とか早ない？」
「早くないよ、ほらこのサイト見てみ
ファーストキスの平均年齢男は16、女は14やって」
「え……」
ほんまや…
見せられた携帯のサイト…
ファーストキス経験年齢…14歳てなってるわ…。
14？
14でみんなちゅっちゅしてるんか！
男の平均年齢も16て…低ない？
けど平均、ゆうことは…
もっと遅い人もいるゆうことよな…
と、無理やり自分を安心させてみる。
「てことは、服部くんもまだやゆうことやね…」
みんなして、にやにやしながらあたしの顔を見よる。
「さ、さぁ？平次のことは知らんよ」
そりゃ、平次かて…
今までキスするような相手がいたことなん、ないように思うけど…。
「和葉以外誰とするゆうん～
まぁでも、他の子に取られんよう気ぃつけや」
そう、茶化されて
頭ん中いっぱいになってしまった。
キス、するとかしないとか、
そんないかがわしい思考で。
そうや…平次がこの先誰とキスするか、なんてわからへんやん。
誰かに取られてしまうかもしれへん…。
い、嫌やわそんなん…。
あかん…
ああいう話題はほんま、勘弁してや…。
放課後までずっと、頭ん中ふわふわ状態やったやん。
＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋
「和葉―帰るでー」
「え…あ、うん」
どないしよう。
平次の顔、今まともに見れんのやけど。
「平次…今日部活ないん…?」
「今日からテスト週間やんけ
あ、勉強するやろ？オレんちでええか？」
「う、うん、いいよ…」
一緒に帰って
一緒に勉強するゆうて、どっちかの家で二人きり。
いつからか、ずっとこんな感じやねん、あたしら。
けどな…
けどな…
手つないだり、
キスしたり、
そういう関係ではないんよ。
だって、
ただの、幼馴染。
平次の家に着いて、あたりまえのように靴を脱いで
あたりまえのようにオバチャンに「こんにちはー」って挨拶して、
あたりまえのように部屋にあがる。
そして、あたりまえのように二人きり。
そんなん今までふつーーーにしてたことや。
今さら
ドキドキなんて、せんでもええやん。
「あ～～～あかんわ！
昨日夜更かしして推理小説読んどってん、もう限界やわ
ちょっとオレ寝るから」
え？
部屋に着くなり学ランの上着を脱いで、
平次がベッドに横になる。
なんとも…無防備な姿で…。
「あんた…勉強は…?」
「せやから、15分経ったら起こしてや。
頼むでー」
な、なんやて…？
本気で寝るん？ 今から？
まぁ別にこんなことも、珍しいことではないんやけど…。
「意識しすぎやろ、あたし…」
はぁ。
平次が寝とる間、なにしてればいいん？
一人で勉強するゆうても集中できんし。
こうなったら、平次の寝顔でも見て……
ようと思ったんやけど、あかんわ…
視線が、平次の唇にいってしまう…。
『他の子に取られんよう気ぃつけや』
昼間、茶化されたことを思い出した。
奪ったら、あかんよな…。
ってなに考えとるん！
あたし、変態とちゃう？
たぶん、な
キスしたら終わってしまうねん。この関係が。
きっと気まずくなってしゃべれんようなって
もう、笑ってもくれへんかもしれん。
あたしらそういう関係やないし、
そういう雰囲気にもならん。
そらそうや、だって、
ただの、幼馴染。
あたしがキス、するとしたら
そりゃ相手はあんたしかおらんけど…
今はまだ、あかんねんな。
そんなこんなをぼーっと考えとったら、時間は過ぎてた。
15分。
「平次！15分経ったでー！
起きやーーー！！」
身体を揺らしても、平次は起きひんから、
今度はほっぺをつねってみた。思いっきり。
「いたいっちゅーねん！
お前！もっと優しく起こさんかい！！」
「優しく揺らしても起きひんかったでな
これでも優しいほうやで？」
「まぁ…目は覚めたわ」
「せやろ」
「…で、お前はオレが寝とる間なにしとってん？」
真顔で聞かれて、一瞬ドキっとした。
見透かされとった気がして…。
「平次の顔じーっと見つめとったんよ」
動揺は隠して、にっこり笑って、冗談まじりに答えてみる。
「うわぁお前、それきついでー
なんかぼんやり悪い夢見たような気がしたのはそれが理由か！」
「アホ！！冗談に決まってるやん！あんたの顔みたってなんもおもろないわ！」
「そらお互い様やで。気ぃ合うな」
「ほんまにな！」
ほらね。
今はまだ、あたしらはこんな感じや。
いつか…キス、するとしたら
片想いが終わってからやね。
ただの幼馴染、から抜け出せたら…
そのときは、
優しいキスで起こしてあげるよ。
＋＋＋＋＋＋＋＋＋＋