Time after teime

いらっしゃいませ

愛し君へ

探偵として、人として、オレは、最低なことをしたかもしれん。

あんなこと言うてあの人がどう思うかくらい、安易に想像できる。
犯人言うても人間や。
傷つけていいか悪いか言うたら…そんなん考えるまでもないわ。


工藤やったら絶対に言わへん。

 

けど止められんかってん。

感情押さえられへんかった。


和葉をあんな目に遭わせたあいつが
憎くて憎くてしゃーないねん。

 

もしも…。

考えることすらしたくはないけど、もしも
もしもあのとき目を開けてくれへんかったら、オレはどないなってたんやろか。

あかん。
考えたらあかんわ。


あの瞬間のことは、もう、思い出したくもない。
オレがオレでなくなりそうで。
冷静でいられなくなるそうで。

 


「平次…ごめんな、勝手に付いてきてまたあんたに心配かけてしまって」

「なんやー?」


ほんまは聞こえとったけど、聞こえへんふりをした。


後ろからオレにしがみつくその手を
ずっと握って離したくない。

て、握れもせんくせにそんなことを思う。

 

お前が
謝らんでもええねん。

なんも、悪くないやろ…?


しいて言えば、オレにチョロチョロくっついてくるからや、
危ない目に遭うんわ。


オレはええねん。
自分で選んだ道や、たとえなにかあっても後悔はせん。

お前はちゃうやろ。

ほんまは恐い想いなん、せんでええはずやのに。

 

『もう、付いてくんなや。』

 

そう、思うのに…

だめなんやオレは。
笑顔で「あたしも連れてって」言うお前を、あたりまえのようにつれ回してしまう。

今回やって、無理やりバイクの後ろに乗ってきたお前を
無理やり降ろして置いてきたってよかったはずや。


きっと、側においておきたいんやな…。


連れて行きたいんや、
オレが。

 

「着いたで」
「ありがとう」


和葉の家の前に着くと、いつものあたりまえの光景にほっとした。

お前を無事に…連れて帰れてほんまによかった。


「ちょっと…お前のオトンに挨拶するわ」
「え、なんで?」
「危ない目に遭わせてすんません、て」
「だって、平次のせいやないやん」
「オレのせいや!」


いつもいつも、
大事な一人娘つれ回してなんも言わへんのは、オレを信頼してるからや。

オレやったら和葉を守れる、って信頼されてる証拠やないんか。


目の前の事件に夢中んなって和葉ひとり守れんようじゃ、
探偵なんやってる意味ない。

 


「蘭ちゃんな…」
「ん?」
「工藤くんが、いつも見守ってくれてるみたい言うてたんよ」
「…そうか」


…それはほんまやで。
あんな小っさい身体んなっても、工藤はいっつも姉ちゃんのこと守っとるん。

なにからなにまで敵わへんな…。


「あたしはほんまに平次が守ってくれとるから、幸せもんやね」

「和葉…」


そう、笑顔で言われた瞬間、
無性に
目の前のこの女を抱き締めたくなったんやけど…

あかん。こいつんちの前やったわ。

 

この気持ちがなんなのか、今のオレにはまだよくわからん。

考えようとすると、胸の奥のほうがざわついて推理に集中できんで、困るんや。
せやから、あんまり考えんようにしとる。

 

けど、わかっとることもある。
ひとつだけ、確かなこと。

絶対に、守らなあかん。

この先、なにがあっても、や。

 

「あ、お父ちゃんまだ帰ってないわ」

なんや、ほんなら、
今ここで抱き締め………られるわけはないわな。


「そうか。ほんならオカンに…」
「いいわ、もう遅いし、よろしく言うてた伝えとくで、あんたもはよ帰り」
「けど…」


「あんたも色々あって疲れとるやろ?なんや悲しい顔しとるで。
悲しい事件やったもんな。ほんまにお疲れさん。
あんまり悩んだらあかんよ」


悲しい顔?
ずっとそんな顔しとるん?オレ…。


和葉、その理由はなー…。


もう、玄関入るの見送って帰ったらいいのに、
この場から動けんでおる。

なにか言葉にしたい気もするんやけど、言葉にできへん。

 

「あたしはもう大丈夫やから」

あんなことあったのに、にこにこ笑ってオレの心配しとる。
なんやねん、こいつ…。

 

「平次、気ぃつけてな。」


「アホ、こっからオレんちまでの距離でなにがある言うん。」
「わからんやん。バイクで転ぶかもしれへんし。」
「ハイハイ気ぃつけます。」

 

そうやな…
もしオレになんかあったら、こいつは間違いなく泣きよる。

そんな顔はさせたない。


けどそれはお互い様やからな。


「和葉も気ぃつけや」
「え、もう玄関入るだけやけど」
「家ん中でも階段から落ちたり風呂で滑ったりするやろ」
「なんやそれ!どんだけアホやねんあたし!」


そうそう、それやで。
そのうるっさい声を毎日聞かせてくれや。

 

「ほな、また明日」
「うん、また明日な」


そんでずっとずっと
「また明日」が言える距離におってほしい。

 

一人分軽くなったバイクに乗り、
今日あった悲しい事件のことやなくて、
さっきまでオレの腰にしがみついとったあいつの
笑った顔を思い浮かべながら

オレはゆっくり家に向かった。

 

++++++++++

『愛し君へ』 ♪GReeeeNより
25巻、鳥取蜘蛛屋敷からの帰り道、平次くんの気持ちを妄想してみました。
タイトルどうしよう、と思ってたらこの曲が浮かびました。
この曲を聴いて二人を想像したら…それだけで泣けます。
歌詞全部が平和に当てはまってしまいます。
蜘蛛屋敷とは、あまり関係ない気もしますが…;
 
2013/09/25 UP

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