Time after teime

いらっしゃいませ

花舞う街で

平次の初恋の人って誰なんやろ…。


あたしはやっぱり、それが頭から離れんかった。


「なぁ和葉。せっかく京都に来たんやし、帰る前に花見でもして行こか。
お前行きたい言うとったし」

「え、ほんま?行く!」

 

京都に来てから、桜なんか飽きるほど見てるけど、やっぱり違うんよ。
平次と二人で見る桜は特別や。

て、あたしはそう思うてるけど。
平次は今なに考えとるんやろか?

 

この街に、平次の初恋の人がいてるんやな…。


「なぁ平次、その初恋の人とはもう会われへんの?」
「あ?」

しまった つい聞きたいことが口に出てしまった。

「連絡先とか聞いたん?今も好きなんか?」
「あほぅ、そんなことお前に関係ないやろ。
連絡先は知っとるし、いつでも会えるで心配いらん」
「え、そうなん!?」

なんやそれ…。
気分さらにがた落ちやわ。
せっかく平次とお花見しとるのに。

「おいこら!
そんなぶっさいくな顔しとったらせっかくの桜が台無しやで!」
「いったー!
何つねっとるん!」
「お、ぶさいくがちょっとはマシんなったな」
「なんやの、もー!!」

どうせ初恋の人にはせーへんのやろこんなこと。

 


穏やかではないあたしの心とは裏腹に、桜はほんまにきれいやな。

満開の桜は宙を舞って、
あたしの肩に、平次の肩に、
ひらひらひらひら舞い降りる。

 

「工藤とあん姉ちゃん、会えたんやな…」


桜に想いを馳せるように、急に平次が呟いた。

その言葉を聞いて、
ふと、蘭ちゃんや園子ちゃんに言われたことを思い出した。

『和葉ちゃんが羨ましい
会いたいときにいつでも会えるんだもん』


そうやね、あたしは幸せものやね。


「なぁ平次、あんた頭のほうもう大丈夫なん?」
「あぁもう平気や」
「帰ったらちゃんと病院行かないかんよ!
あたしも一緒に行くで」
「なんでお前が一緒に来るんや
病院くらい一人で行けるわ」
「えーやん!平次のことが心配なんやもん。
一緒に連れてってや」
「あーもう勝手にしたらええわ」


なんだかんだ言うて
好きな人のそばにおれるんやから。

 

「なんや気持ちえーな。
眠とーなるわ」
「ほな、そのへん座ろか?」
「ほんまに寝てしまうで」
「寝たらいいやん。起こしてあげるから」

平次の寝顔、見たいしなぁ。
なんてちょっとした下心もあったりしてな。


ぽかぽかあったかい春の風の中、桜の下に腰掛けてたら…あかん、あたしまで眠なってきた。


「なぁ和葉、あの歌うたってや」
「なに?あの歌て」
「オレらのピンチを救ったあの手鞠唄や」
「はぁ?いややわ、歌わへんよ!」
「なんでやさっき歌うとったやん」
「歌え言われて歌うもんやないの!
なんで急にそんなこと言うん」
「オレあの歌が好きなんや
子守唄や子守唄!」

「なんやそれ…。
まぁ…じゃあ小さい声でな。
よー聞いとき!」
「おう」

 

♪まーるたけえびすにおしおいけー
あねさんろっかくたこにしきー


「そこはよめさんのままでええ!」
「え?
なに、平次がさっき違う言うたんやろ」
「ええんやて。よめさんて間違うとるほうがアホの和葉らしゅうて」
「なんやのそれー」
「ほな、もいっかい」

「もう…」


意味わからんで。
急に手毬唄歌え言うたり、
『よめさん』のままでええ言うたり。

まぁでも 悪い気はせんでな…。


♪まーるたけえびすにおしおいけー
よめさんろっかくたこにしきー
しあやぶったかまつまんごじょうー
せったちゃらちゃらとおりすぎー
はっちょうこえればとうじみちー
くじょうおおじでとどめさすー…

 

「平次…?」

あたしは右肩に重みを感じた。
なんや…こういう自然なんは。
めっちゃ嬉しいわ。

「もう寝てまったん。
あんだけ活躍したらな。
…これ子守唄と違うんやけどな」


きっとしばらくは起きひんよな…。
そう思って、あたしの肩に寄りかかる平次の頭のほうに自分の首を傾けた。

 

二人の間に、穏やかな時間が流れる。

「あかんあかん。
あたしまで寝てしまったら平次起こされへん!」

 

『初恋の人には負けへんよ』


ひらひら舞う桜の花びらに、あたしはそう誓ったんや。

 

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映画『迷宮の十字路』のラストシーンのその後…を妄想してみました。
十字路は映画館で観ました。
あれからもう10年以上経つのですね…。


2013/08

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