Time after teime

いらっしゃいませ

さよならまで5分

『もうすぐ、家についてしまうな…』

いつもと同じ交差点で同じことを思いながら平次の背中から回した手に力を入れる。
信号が、赤のままならいいのに。
止まるたびに思うこともいつもおんなじ。
ここからアタシの家に着くまで約5分。

まだごめんね、を言うてない。
今日の喧嘩の原因はなんやったっけ。
くだらない言い合いをして、拗ねたままのアタシに
『ほれ』と差し出したヘルメットがもう帰るで、の合図やった。
いつもより少し遠い場所に連れてきてもらったのにありがとうも言えてないまま。


別れ際には笑えるかな、そう思ってるうちに平次がバイクを止める。
家に着いてしまった。
交差点からの5分はあっという間やった。
そのまま帰るんではなく、平次もバイクから降りてメットを外した。


「明日は…ちょっと調べもん頼まれとるから、朝から府警やで」
「うん…そう言っとったな…」

うつむいたまま答えるアタシの顔を覗きこんで、
「なんや、まだご機嫌斜めなんか?和葉ちゃんはー」
笑いながらほっぺをつねる。

「何するん、痛いやん、平次のアホ!」
「また怒らせたか?」
「別に…怒ってはないけど…」
もう、怒ってなんてないけど、
「明日は会えんのやな、って……」
それが今、浮かない顔をしてる理由。

恥ずかしいから目は合わせないけれど
ちょっとだけ素直になって言うてみたん。
茶化すんやったら茶化したらええ。
そう思ってたアタシを平次はなんも言わずに抱き寄せた。

「ほぼ毎日会っとるやんけ。1日くらいなんやねん」
「そうやけど……っ」
さみしいよ。
会えない日だってそりゃあるけど
そういう日のが少ないもん。
平次に会えないと1日が長い。
会って一緒に過ごせる日はあっという間に終わるのに。

「和葉、お前、遠距離絶対無理やな」
抱き寄せたまま、頭をポンポンと軽く叩きながら平次が言う。
「無理や…無理に決まってるやん。
平次が側におらんとあかんよ」
顔を見られてないからやろか、さっきよりさらに素直になれるんは。

「オレも無理やけど」

平次のそんな言葉を聞いたら、余計に離れたくなくなってしまった。


喧嘩しとったときは言えんかったのに
こんな、さよならの間際には言えるんやな。
特にごめんねも言わんとまた元通りになって笑い合う、なんて、よくあること。
でも、もっと早くに素直になって仲直りしとったら、
もっといっぱい平次に甘えられたのに。
少し後悔して、平次の胸に顔を沈めたまま平次の腕をぎゅっと掴む。

「あと5分だけ、こうしとってもええ…?」
「この体勢で5分は、けっこう長いで」
「長ないよ…。ほんまは、帰りたくないんよ」
「それはなー…。オレお前の親父に、毎回ちゃんと帰す約束しとるん」
「うん……」
せやから、あと、5分だけ。


交差点で平次の背中から回した手に力を入れてから家に着くまで5分。
家の前で話をして、抱き寄せられるまで…は、5分もなかったかな。
このままの体勢で、と平次に甘えてからさよならまでまた5分。
このまま時が、止まったらええな、って、
願ってやまない5分間。


「明日……遅くなるかもしれんけど…また迎えに来るわ」
そう言いながら体を離し、向き合った状態で平次は目を合わせる。
「え?」
「メシくらいは食いに行けるやろ」
「…そ、そんなに毎日アタシに会いたいん?」
「アーホ。そらお前やろ。
お前が離れたない、毎日会わな寂しい言うからや」
何も言い返せんくてほっぺを膨らませる。
そんなことストレートに言うてないけど、心を見透かされたみたいで恥ずかしい。
恥ずかしいから、目を逸らす。


「また、明日な」
斜め下に目線を逸らしたままのアタシの前髪をくしゃくしゃとかきわけながら平次が笑う。
「うん…。平次、気ぃつけて帰ってな」
「大丈夫やから、はよ、家に入れや」


さっきは、時が止まったらええなんて思っとったのに
今は、早く明日にならへんかな、って、
なんて現金なアタシ。

別れ際の『また明日』は魔法の言葉。


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久しぶりのお話なんですがいつも似たような話書いてるなって思いました;
付き合ってるときって、デートの終わり際家に着くのいやだなーって思ったりしますよね。
このさみしさも結婚するまでだし、楽しんでればいいんじゃないかと(*^_^*)

2015/11/18 UP

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