Time after teime

いらっしゃいませ

アタシがずっとなりたかったもの

今より少し昔のことを、思い出してた。

「お母ちゃん、アタシ、こっちのオモチャが良かったん」

スーパーの、レジを通したあとのお菓子の箱を開けて出てきたオマケのネックレスを手に、ほんまは指輪が欲しかったんやとだだをこねた。
泣き出しそうなアタシの前にしゃがんで目線を合わせ、お母ちゃんは言うた。

「和葉、大きくなったら、和葉の大事な人がな、
きらっきらの、これよりもっとかわいらしい石のついた指輪を買うてくれるからな」
「きらっきらの…?もっとかわええの?」
「そうや。それを楽しみに、待ってたらええんよ」

今思えば、小学生のアタシをなだめるんに言う台詞としては早すぎな気がするけど、
アタシは同時その言葉でちゃんと納得したんを覚えてる。
まるでおとぎ話を聞いてるような、
わくわくした感覚で、いつかのその日を思い描いた。


「……へいじが、ゆびわ、こうてくれるゆうこと?」

お母ちゃんはなんも言わず、小さなアタシの手をぎゅっと握った。
優しい顔でアタシを見てた。

アタシは今でも、その顔を覚えてる。

 


「なんかこっち、派手すぎちゃう?」
「やっぱり、そうやろか…。ほんなら、こっちはどう?」
「まだこっちのがええかもな。私はこれ好きや」
「平次は、どっちが好きやろか……」

リビングのソファで母娘2人、眺めるスマホの画面に映るんは、
先週、試着してきたばかりのカラーのドレス。

「そうやな、お母ちゃんより、平次くんの意見が大事やな」
笑いながらそう言われて
「でも、平次の好みなんてわからへんし、当日まで内緒にしとくつもりやもん!」
照れながら答える。

今さら、お母ちゃん相手に、平次の話を照れながらするんは可笑しい気もする。
平次の話しか、してこなかったのにな。


「お父ちゃん、最近また忙しいやろ、アタシも帰らんことあるし、
あんま話せてないんやけど……なんか、言うてた?」
「なんかって?」
「せやから……」

平次のことなんか言うてた?
って、言葉にできへんのは、なんとなく照れくさいからやろか。
言葉にせんくても、お母ちゃんなら、わかってくれるん。

「お父ちゃん、な…。
よその知らん男に持っていかれるより、マシや言うてたよ」
「ま、マシ…?」
「はは。ほんまは、めっちゃ嬉しいんよ」
嬉しい?それもほんまかな、思うけど…。
「嬉しいかな…」
「お父ちゃんもお母ちゃんも、
あんたがずっとなりたかったもん、知ってるからな」
「え?」


アタシがずっとなりたかったもの。
年を重ねて形を変えて、
アタシがずっとなりたかったものは………。

「なりたいもんに、ずっと、なれてたよな………」
「平次くんのおかげやで」
「うん」
やっぱりこういう話は照れくさくて、思わず下を向いた。


アタシな、
平次の幼なじみでよかったな、って思っとったん、
小学生の頃、中学生の頃。
周りの女の子より、ちょっとだけ特別なんかな、って思って
その関係が心地よかった。

いつからか、彼女になれたらもっと幸せやなって、
願うようになってた。

それが叶ったら、今度はー…。

ちょっとずつ欲は出てきてしまってたけど、平次の隣にいたいって、
それはずっと変わらなかった。

もしも平次が、アタシを大事に思ってくれることがあるんなら………
ずっとずっと、そう思われる存在でいたいと思ってきたん。

年を重ねて形を変えて
きらっきらの平次の横で
平次のために生きてくただひとりに
アタシはずっとずっとなりたかったんよ。


「なぁ和葉、もういっかいちゃんと見せてや」
わずかな沈黙のあと、お母ちゃんがアタシの右手を指差した。

「いいけど、絶対傷付けんでや!」
「わかってるって。せやけどあんた、毎日付けとったら多少傷くらい付くんやで」
「そらそうやけど…っ」
見せて言われて右手薬指からそっと外した指輪を、お母ちゃんの手のひらに乗せた。

「相当、高いんちゃう?
平次くん、見栄張ったな」
「べ、別に値段は問題ちゃうもん!」
「そらそうやな」

ずっとずっと、この指輪のために薬指はあけてきた。
オモチャの指輪もガマンして。

「ほら、お母ちゃんの言うたこと、ほんまになったろ?」
「え?」

いつかのあの日と同じ、優しい顔で微笑んだ。
覚えてたんや。
あの日のこと。
あんな小さな日常のやりとり、お母ちゃんも覚えてたん。

「よかったなぁ、和葉。
願い、叶ったな」


オモチャの指輪をガマンして、小さなアタシが
いつか叶えたいと願ったこと
いつも平次が叶えてくれた。

 

++++++++++

和葉ちゃんのお母ちゃんはいまだに出てきていないので
すべて想像の捏造です^^;
静華さんと一緒に、2人の恋をずっと見守ってきてくれたんだったらいいな。
きっとそうだろうと思いますv

2015/08/02 UP

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