Time after teime

いらっしゃいませ

キスする前に

「平次、なんで……っ、ん……」
やっと言葉になった声も一瞬で消されてしまった。

平次の部屋で2人きりになるんは、いつも通りのこと。
いつもと違うんは、今、部屋ん中で、アタシらの会話はなくって、
舌を絡ませ合う音だけが響き渡る。

ちょっと手が触れ合ったん。
次の瞬間に目が合うて動けずにいたら、突然柔らかいものが唇に触れた。
これがキスなんや、なんて浸る間もなく、唇を割って入ってきた生暖かい感触。
アタシはやっぱりまた動けなくなった。

こんなん、もちろん、初めてやし、
どうしたらいいのかもわからへんし、
なんで?なんで?って、
さっきから頭ん中はそればっかり…。

だって、平次、アタシら、こんなことする関係やないやんな?
ただの、幼なじみやん。


「やめてや…。なんでこんなことするん…」

唇が離れた瞬間に、再び平次に問いかける。
それはそれは弱々しい、消えそうな声で。
平次の顔は怖くて見られない。

「ほんまにやめて欲しかったら、本気で抵抗したらやめたるけど」

……は?
なんやの、それ。
お前次第やで?って、こと?
どういう意味で言うてるん。

言葉が出なくて、ただ黙ってるアタシの唇に、また、平次の唇が触れる。

右手でしっぽごと、頭押さえられて、左手は肩に回されて
さっきよりもさらに深く、深くー…。
もう、なんも、考えられなくなってきて、頭、ぼーっとしてきて
これが、夢なんか、現実なんかも……。


早く、抵抗せな。
拒否せんと、バレてしまうよ。
平次が好きやって、平次に伝わってしまう。
いや、もしかしたら、伝わってるん…?
アタシの気持ち知ってて、こんなことするん?
よくわからない。
平次の気持ちがまったくわからへんよ。

抵抗せんと、なんて気持ちとは裏腹に、
ふわっと、全身の力が抜けていくんがわかる。
もう何分も、唇が、触れては離れて…を繰り返してるうちに、
ただただ行き場のなかったアタシの腕も平次の肩に回り、いつの間にか
ぎゅうって、夢中でー…。


「和葉」

耳元で名前を呼ばれた。
優しい声やった。
けど、浸る余裕なんやっぱりなかった。

「!?」
セーラー服の裾を捲り上げ、侵入してくる手の動きにハッとした。
あかんよ、さすがにこれはー…。
プチっと、ホックの外れる音がして、我に返る。

「あかん!やめて、やめてや、平次!!」

手を振り払ったら、涙がぽろぽろこぼれ落ちてきた。
止まらない。
されたことよりも、拒否した自分が悲しかったん。
こんなの本心やないのに。

ほんまは、キスしてもいいって思ってたんよ、
アタシが……。
平次となら、その先だって―……。

けど、それは、幼なじみを卒業したあとの話。


「…せやから、なんでこんなことするん、て…」
「…泣かせたこと謝るわ。…すまん」
「なんやそれ……」

今までしたことない、重苦しい会話を交わし、お互い無言のまま時が過ぎてく。
どうしたらいいか、わからなくなって
そっぽ向いてそのまま顔を伏せて目を閉じた。


平次、アタシが聞きたかったんはそんな言葉やないよ。

アタシら、
抱き合う前に触れ合う前に、
キスする前に
お互い、言わなあかん言葉があったよな。
その言葉さえちゃんと聞けたら、言えたら、
アタシはアンタに何されたっていいって思ってたんよ。

もう、幼なじみには戻れないんやないかと思った。
かと言って恋人になれるわけでもないんやね。

今まで守ってきたものが壊れてしまったよ。
…平次のせいや。

 

 

 


目を開けたら、隣で平次も目を閉じてた。
膝を抱えて丸くなって、目、瞑ったはずやのに、…気付いたらベッドの上。
気、使って布団まで、かけてくれたん。

「なぁ平次、起きてや」肩を揺すると、「なんやねん、気持ちよー寝とったのに」って目をこする。

「ただの幼なじみのアタシになんであんなことしたん……」
「は?」
時間を置いたら話せるような気がした。
前みたいな関係に戻れないとしても、言いたいことだけは言っておきたい。
そう、思ったん。
平次は、「は?」なんてとぼけてるけど。

「アンタ、最低や…!
だいたいまだ高校生やし、そういう…いやらしいことする前に、大事なこと言わなあかんとちゃうん!?」

最低、って言いすぎやったかな。
平次は不思議そうな顔をして、それから呆れたようにアタシをにらみながら口を開く。
「お前、大丈夫か?」
「なにが」
「いつ高校生に若返ったん。
ただの幼なじみに戻った覚えもないし」
「え…。だって、セーラー服の裾から、平次の手が………」
「オレの手が?」
「部屋で2人でおったらいきなりいやっらしーチューしてきて、
そのままアンタ調子に乗ってブラのホック外してきたやん…」
不思議そうな顔で話を聞いてた平次はいつの間にかにやついてた。
と、いうより、笑いを堪えてるような様子で…意地悪そうに問う。
「ほー。そんで?そっからどうなったん」
「そ、それから……っ。
あ、あれ、なんやったっけ……」
「中途半端やなぁ。どうせ夢見るなら最後までちゃんと覚えとけや」
「ゆ、夢……?夢!?」

やっと状況を飲み込んで、少しほっとした。
…のもつかの間、「あかん、お前アホすぎるわ」大声で笑いだす平次を見て、
めっちゃ恥ずかしくなって、アタシは顔を隠す。
「なんちゅー夢見とるん!」
ほんまや…。アタシ、なんでそんな夢見てるん…。

「やたら色っぽい声出したり、やめてや、なんでや、ってよーわからん寝言言いよるな思っとったけど、まさか、幼なじみのままいかがわしいことしてしまった設定の夢なん見てるとはなぁ」
「や、やめてや、もうそんなん言わんで………。
そんな寝言言うてたん…。アンタ熟睡してたんやないの」
笑ってくれてまだよかったかもしれん。
今すぐここから消えたい気持ちや。

「まぁ、別にええんちゃう。
相手が他の男やったりしたら、夢とはいえオレも黙っとれんけど」
「他の男て……」
そんなことはあるわけないよ。
平次以外の人に触られるなん、たとえ夢でもありえへんもん。
って、今はそんなことよりも…。

「あんな夢見るなんておかしいんかなアタシ…」
「オレもそんな夢よー見とったけど」
「え!?」
「付き合う前から」
「付き合う前から…?」

思わず「変態やな」て言おう思ったけど、「お前もな」って言い返されそうでやめた。

ちょっと…色々疲れたよ。
ただ寝てただけやのに。


「…なにまた触っとるん」
「和葉が起こすからや。ええやん。ただの幼なじみじゃないんやし、高校生でもないし」
「さっきもしたのに……」
「何回でもいけるで。お前も欲求不満ちゃうんかな、思って」
「そんなんやないもん!アホなこと言わんといてや!」
「ほんまは嬉しいくせに」

ほっぺ膨らませて、拗ねたふりして平次を見る。
そうや、嬉しくない言うたら嘘になる。
幼なじみの頃には出来んかったこと。いっぱい出来るんは幸せよ。

 

「ちょっと待って」
「なんやねん」
近づいてくる唇を手のひらで制止すると、あからさまに不機嫌そうな平次。

「キスする前に、言うて欲しいことがある…」
「なんや」
「大事なことや」
「いつもはそんなこと言わへんくせに」


今さらかもしれんけど
わざわざ言葉にして言う必要なんないことやけど
あんな夢見たせいや。
聞きたくなったん。


「言うてや。減るもんやないし。
キスする前に―…」

 

++++++++++

こういう設定のこういう展開は、自分の中でちょっとなぁ…、
て思いがあって書き進められず途中で放置してたんですが、
このオチにしたらいけるんじゃ!って、書いちゃいました^^;
幼なじみのままチューしちゃって、なんで?なんで?嬉しいけどなんで?みたいな話も
ドキドキするしおいしい気がするんですが(^^;)
やっぱりそこはちゃんとして欲しいと思うから、まぁ、夢の中ならね、って話でした(*^^*)
 
2015/06/05 UP

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