「…なぁ、そんなあちこちにつけんといてや、いやらしい」
首筋に、唇が這うたびに、少しくすぐったくてビクッて震える。
ほんまは、嬉しい気持ちももちろんあるのに、恥ずかしいしいまだに慣れへんくて。
「あー?ええやん別に。オレのもんなんやで」
「……それ、なかなか認めてくれんかったくせに」
アタシ、ほんまに、平次のもんなんや。
たまにあらためて実感させられると、思わず頬が緩んでしまうよ。
朝起きて鏡見て、照れくさくてにやけてるん。
肌の赤くなってる場所数えて、思い出して幸せで。
…内緒やけど。
「平次は、こういうことしてくれても、あんまり言葉には出さないんやな」
「なにがや」
「好きや、とか愛してる、とか」
「好きやでー。愛してるでー」
「なんやその、適当な感じは!」
「気色悪いやろ」
「……ええもん、別に。
アタシの頭ん中に、ずっと残ってる言葉あるから」
「なんやそれ」
「せやから、オレのー…」
「ちょー待ち!それを今言うな!!」
「なんでやー。好きやで、愛してるで、は言えたのに?」
「その言葉は特別なん……」
特別。平次にとっても特別なんや。
て、ゆうかさっき、オレのもん、言うてたよな…?
「アンタは、アタシの平次、やんな?」
「あ?」
「アタシもその証拠、つけたい。強く吸ったらつくん?」
「や、待て、見えるとこはあかんで」
「えーなんでなん。見えんかったら意味ないやん!」
「工藤たちにからかわれる」
…なんや、そんなことか。
そんなん、からかわれたらええねん。
自分は、見える見えない関わらず、好き勝手に人の肌吸いまくるくせに。
そんなことをごちゃごちゃ考えながら、愛しいその肌に唇で触れる。
鎖骨のへんが、なんだか妙に色っぽくて、
あぁ、アタシとは違うんやな、
平次は男の人なんや、って、
小さい頃から当たり前に知ってたことを小さい頃とは違う意味で実感して
女でよかったな、って、触れるたびにそう思うん。
「もー!色黒いからつきにくいわー。ただの虫刺されにしか見えへん気がするー」
「あーそうやな、へんな虫に刺されましたー、言うとくわ」
「へんな虫って失礼やね!」
見えるとこと、見えへんとこ、
アタシなりに精一杯つけた、赤い跡みっつ。
…つける方はつける方で、けっこう、恥ずかしいんやな…。
もっと上手く、きれいに、つけられたらいいのに。
「練習するしかないんかな……」
ぼそっと、声に出てしまった小さな呟きにすぐに反応して、平次は
「こうするねん。よう、覚えとき」
って、得意げに。
また、立場逆転して、さっきの続き。
「さすがに、こないぎょーさん跡ついとったら、虫刺されでは誤魔化せへんよ…」
「アーホ。ほとんど服着たら見えへんとこや。お前が朝起きたときに鏡見て、ひとりにやけとったらええねん」
「え、なんで…っ」
なんでそれ、バレとるん!?
否定するのを忘れたアタシの顔を見て、平次はニヤリと嫌らしく笑うから
アタシはもう、恥ずかしいを越してどうにでもなったらええ、って、
目を閉じて、平次にされるがまま。
アタシはみっつしか、つけられへんかったけど、平次はー………。
本音を言えば、いつも、朝が、楽しみなんよ。
これが、不器用な平次の愛情表現やとしたら………
その愛の証を見て、にやけてまうんは、
当然のことやんな。
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