Time after teime

いらっしゃいませ

もしかして奇跡

…夢、なんとちゃうかな。
もし、夢やとしたら、このままずっと覚めんで欲しい。


「平次、今言うたこと、ほんま…?」
さっきから何度目になるんかなこの台詞。
テンパるアタシはこんな言葉しか出てこないん。
照れ隠し、ちゃうよ。

「しつこいやっちゃなー、嘘で言うかいなドアホ!!」
「やって、平次が?
平次やで?アンタ平次やんな!?」
「なにをわけわからんこと言うとんのや!」
「もういっかい……」
「言わへんわ、ボーケ」

夢の中では、何度も何度も、
そんな言葉を聞いてきたような気がする。
でも、しょせん、夢は夢やから、目が覚めたらあたりまえやけどそんなことなかったことで、
平次に会っても素直やないアタシ。

今、目の前で少し照れながら目を逸らす平次は
夢の中ではなくて現実での平次。
現実での平次?

「…なんか言えや」
「え…?」
逸らしてた目をこちらに向けて、平次がアタシに声をかける。
「お前は……その、……オレのことは………」
あぁそっか、返事…返事をせんとあかんかったな。
 
簡単には、言葉が出ないよ。


なんて言うたらええんやろか。

今までずっとずっと
この胸の中、あたたかく大事にしてきたこの気持ちを全部伝えるには、どうしたらええんやろ。
どんな言葉も、この想い全部伝えるにはあまりに軽い気がするん。
平次が言うてくれた、その言葉を思うと余計に、な………。

なんて伝えたらいいん?
どう伝えたらいいん?
なぁ、平次。


しばらく沈黙が続いて、少しだけ、空気が重くなってきたような気がする。
平次はアタシが言葉を発するのを待ってるようで、何も言わずに時々頭をかきわけて、目があったら
平次は真剣な顔、してるから
いつも以上にドキドキしてしまう。


「………っ」
「あ?…おい、なに泣いとるんお前!」
あれ?
アタシ、今、泣いてるん?

平次が慌ててる。
頭脳明晰な探偵を、こんな風に取り乱させる、アタシはそんなことができる女やったん。
なんて、余裕ないくせに、考えてみる。

「オレ困らせること言うたか?」って、ちょっと暗い顔して問う平次に、「アンタ、探偵言うてもまだまだやな」って、涙目のまま笑いながら答える。

だって、奇跡でも起こらん限り、平次からそんな言葉聞けると思ってなかったん。
もしかして、ほんまに奇跡が起こったん?
ほんまにほんまに、夢ではなくて?
現実?

平次がアタシに、
言うたん?

 

「アタシ、平次のことめっちゃ好きって言うたやん。聞いてなかったんは平次やで」
いつかの、ちょっとだけ苦い思い出が蘇る。
「は?そんなんいつ言うたん」
「やから、アンタ聞いてなかったから……」
「………やったら、今、言えや。もう1回」

…今?
平次に、めっちゃ好きやねん!って?


平次が気持ちを伝えてくれて。
絶対に拒否されることはないって、わかりきってる今、
『めっちゃ好き』って、目の前の平次に言うのは容易い。

でも………

「言わへんよ……」

容易いけど、言わない。

「なんでや」
「平次が言うてくれたからええやん。アタシは言わへんもん」
「オレだけに言わすんか、お前の気持ちも聞かせろや」

アタシの気持ちなんて、言うまでもないやろ。
もう、めっちゃ好き、や足りないんよ。

わかってくれんの?
やから、探偵言うてもまだまだ、言うてるん。

―いや、もう、ほんまは、わかってるくせに。


言え、言わない、のやりとりを数回繰り返して、やっと諦めた平次は、
ひとつだけ、ふぅ、と小さなため息をついて
「泣くと不細工になるで」
って言いながら、頬に伝う涙を拭ってくれた。

「不細工は困るな………」
平次の前ではいつも可愛くいたいよ。
口を開けば憎まれ口ばかりなアタシには、そんなの無理かもしれんけど。
それに平次は絶対に、アタシに『可愛え』なんて言うたりせんやろし。

そんな平次やからこそ、平次が言うてくれた言葉は全部全部、忘れんよ。
いつかの戎橋でのあの言葉も、
ついさっき言うてくれた告白も。


もしかして夢かも、って思ったん。
でもだんだん、平次の顔見てたら声聞いてたら、夢やないって信じられたよ。
ほんまに、奇跡が、起こったんやな。


「平次、ありがとう……」

それだけ言うたら、また、涙がぽろぽろ溢れてきてしまった。
手を伸ばして、平次の頬に少し触れたら、その手をそのまま引っ張られて抱き寄せられて……
平次の胸に耳を寄せると、
平次の、心臓の音がする。

「礼を言われるようなこと、してへんけど」
「してくれたよ」

ずっと聞きたかった言葉、言うてくれたよ。
頬に触れてくれたよ。
抱きしめてくれたよ。

アタシの願いを、初恋を、叶えてくれたよ。

ずっと、こんままがええな。
平次の鼓動のリズムが耳に響くと優しい気持ちになる。
この音ずっとずっと、
近くで聴ける存在やったらいい。


「…返事は、お、OK…やんな?」
え?
あ、あぁその話、まだ、続いとったん…。
「もうー、今さら返事てなんや!
わかっとって抱きしめたんやないの?」  
「い、一応確認したっとるんやないか!」
確認て、なによ…。YESとかNOとか、もうそんな問題ちゃうやろ。
言わへんアタシが悪いかもしれんけど―…。


今は、胸がいっぱいで
でも  
いつかはな、アタシも
平次が絶対忘れんような言葉で、
とびきりの愛の告白を、
いつかはしたいと思ってるんよ。          


「ほんなら、チューしても怒らへんな?」
夢見心地で、浸ってたところに、
また、夢なんか現実なんか、わからなくなるような平次の言葉。

「え!?今!?」
「アカンのか?」
アカン、ゆうか心の準備が………。
なんて思う間もなく、平次の顔が近づいてきて…
あ、目、きれいやな。
肌はやっぱり、黒いけど。
なんてこともゆっくり思う間もなく、
目を閉じるタイミングもいまいちわからへんまま、

もういっこ奇跡が、起きてしまった。

 

++++++++++

2015年ホワイトデーにアップ。
『その言葉』は、今の私には想像もできなくて、だから、想像できないままで書きました。
なんて言うんでしょうね(*^^*)楽しみですね(*^^*)
久しぶりに、おまけSS書きました。短いですが。
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2015/03/14 UP

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