Time after teime

いらっしゃいませ

Sweet Mom

「いた…っ」

ソファに腰掛けながら、うとうとしかかってたんは確か昼過ぎ。
「またおっきくなったかも」って撫でながら
平次今日は何時に帰って来るんかな、なんて考えつつ目を閉じて…
外はもう日が暮れとって、何時間か経ってたんやとわかった。
いつものように、体の内側からの強力なキックで目が覚めた。


少し雑にしまわれた洗濯物、眠る前にはかけていなかったはずのブランケットに気付いて
物音がするキッチンに目をやる。

「平次、帰っとったん…」
「おー、やっと起きたか」
「なんや、起こしてくれたらよかったのに…」
「お前ヨダレ垂らしてマヌケな顔で気持ち良さそーに寝とったで。
起こすんは気がひけたわ」
「アホっ、ヨダレなん、垂らしてないっ!」
「女の体はよーわからんけど、疲れやすいんやろ?
夜もあんま寝られへんみたいやし」
「気、使ってくれたん…。らしくないな」
「お前、一言余計や」

そう、最近はさっき起こされたようなキックがもっと激しいときもあって
夜中に熟睡できんことも、しばしば。
けどなにより元気な証拠やし、平次が事件やなんやでいないときにも、寂しくないんは
きっとそのキックのおかげ。
「お父ちゃんが優しいのは、調子狂うなー」
アタシは笑いながら、自分の中のもうひとりに話しかける。

「生まれる前からオレの悪口ばっかり聞かすなや」
「悪口ちゃうて。
平次、なんでキッチンになんか立っとるん?」
「腹減ったからメシでも作ろうかな思って」
「えっ、アンタが!?
ええよ、アタシ作るから。ごめんそんな時間やったな」

重い体を起こし、平次のいるキッチンへ向かう。

「お前髪の毛ぼっさぼさやで」
頭をくしゃくしゃと撫でられると、嬉しくて
「余計ぼさぼさになるやんー」
なんて言いながらも、つい笑みがこぼれてしまうよ。

 

「和葉」

名前を呼ぶ声が優しくて、平次の胸に耳を寄せた。

「なんや、子どもみたいやな」
「平次一気に二人の父親になるん?
おかえりお父ちゃん」
「アホか」
子ども扱いでもなんでもええよ。
いつもの鼓動にほっとする。

「性別やっぱり、聞いたほうがええかな」
「オレはどっちでもええけど」
「やっぱ聞かんどく!」
「あぁ」
「楽しみやね。あ、色黒だったらどないしよう」
「あー?別にええやん」
「まぁ、いいけど…。でも、無茶ばっかするとこ平次に似たら、アタシ心配してばっかりで大変や」
「だーいじょうぶやって!オレに似るんなら多少のことでどうこうなったりせんやろし」
「…悪運だけは強いもんな…」
「お前悪運の使い方、間違うとるわ。
悪いことしても報いは受けんゆう意味やで」
「あ、そうか…」
「ちゅーかお前も相当いい思うで、運」
「そうやな、なんべんも死にそうになったのに、今こうしてここにおるしな」
けど、それは、運だけやなくって…
平次が守ってきてくれたから。
いつも、いつも。

平次、守らなあかんもんが、どんどん増えていくな。
それはアタシも、おんなじやけど―…。

 

「平次、好きや…」

「はー?なんやねん急に」
平次は笑いながらまた、アタシの頭をくしゃくしゃとする。
ごはんの準備せなあかんのに、平次から離れられへん。
やっぱりアタシはまだまだ子どもみたいやな。


「いた、痛いっ…」
「あ?また蹴られた?」
「やきもち妬いとるんかも」
「どっちにや」
「どっちやろか…」

いつからやろ…平次がアタシのこと、『オレの』なんて言うてくれる前からだって
アタシはずっと『平次の』もんやって
自分でも思って生きてきたけど
思えば昔からずっとずっと、アタシも平次を独り占めしてきた。

「…もう、アタシだけの平次やなくなるんやな…」
「なんやそれ。お前のほうが自分の子どもにもやきもち妬くん?」
「そんなんとちゃう…けど……」
「そない言うて、和葉がオレより子ども、になるんやないんか」
「否定はせんよ。平次のことなんどうでもよくなるかも」
「オイ」
「平次やって、でれっでれになるかもしれへんやんー」


色々想像すると、顔が、にやけてしまう。
なぁ、ここにおるアンタは、どっちに似てるん?
平次にそっくりな男の子やったら、アタシ、メロメロになってまうよ。
もう1回、小さい頃の平次の面影に会えるんは嬉しいな。
平次とは一緒に成長してきたけど、今度は、母親としてその成長を見守るん。
女の子やったら、平次、メロメロになるんかな?
あんまり想像、できやんけど…。
アタシによく似た姿を見て、平次が幼いアタシを思い出してくれるのもええ。

きっと平次は、アタシにするのと同じように
優しく笑いながら頭を撫でて、優しくその体を抱き、
もしかしたら、アタシには見せたことないような笑顔を向けたりするのかもしれん。
そんな平次に会えるんも、楽しみやって、思ってるんよ。


せやから、今だけ…
あともう少しだけ、平次のこと、独り占めさせてな。

 

++++++++++

『Sweet Mom』 ♪柴咲コウ より 
  
私ずっと、この歌「スイートマン」だと思ってて(綴りが違うのに)、
愛しい恋人のことを歌った曲なのかなと聴いてたんですが、
少し前に、どうやら「スイートマム」(お母さん)、という意味だということを知って…
確かに歌詞をよく見るとそうだ!となんだか感動してしまいました。
とっても、優しい曲^^
でも歌詞と話の内容あんまり関係なかったですね…;

2014/10/17 UP

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