Time after teime

いらっしゃいませ

白の約束

メモは、用意せんかった。

高砂に座る2人を目にした瞬間の気持ちを、そのまま言葉にしようと思ってたん…。
そんなん、どうってことないって思ってたけど、
いざとなると、やっぱり、うまい言葉が見つからへんもんやな…。


「平次くん、和葉さん、御両家ご親族の皆様、本日は誠におめでとうございます。
……和葉、おめでとう……」

和葉が、少し潤んだ瞳でこっちを見てる。
あかんよ。泣いたら化粧、崩れてしまうよ。
そしたら隣の彼に、「不細工やで」って、また、思ってもないこと言われるんよ。

 

数時間前に控え室で今日の和葉を初めて見た瞬間は、なんや別人みたいな気がした。

「なぁ千香子、平次にはもう会うた?
写真撮ったときに見たきりで今日はまだなんやけどな、めっちゃ紋付き似合うとってん。
アタシまた、惚れ直してしまうよ」
口を開けば、和葉は和葉やった。

「本人には言えんくせに」
「え?」
「いやな、あんたはいつもその瞬間瞬間に、服部くんに恋してるんやなって思って」
「え…っ」

ほんまに、一生、ひとりだけなんやな。

「もったいないなぁ、あんた大学でも勤めに行ってからも、言い寄られたりしとったんやろ?
もっと色んな男の人と、色んな経験できとったやろうに」
「えー?言い寄られたりなんしてへんし…十分いろんな経験してきたよ」
「それ、へんな事件に巻き込まれたりとか、そういうことやろ?」
「はは、退屈せん人生や」
そう言うて笑った。


あぁこの子には、『色んな男の人』も、『服部がいない場所での経験』も、
なんも、必要ないことなんや。
昔からそれは、変わらへんのやな……。
今まで一回も、ほかの男の話がその口から出たことなかったよな。
そう、和葉は、服部くんの隣で怒ったり泣いたり笑ったり…
服部くんの隣で生きてくんが、いちばん自然なんよ。
いつも幸せそうやった。今日の姿は全部と重なる。

ずっと友達やったから、照れくさくてそんときは、はっきり言うてあげれんかったけど
今まで見たどんな横顔より―…。

 

「私と和葉は、中学、高校と一緒で、大学で離れてからも仲良うしてきましたが、
ほんまに和葉は昔から、服部くんのことが大好きで、
服部くんの話ばかり、私は毎日聞かされてきました」
にっこり、和葉に笑いかけたら、和葉はバツ悪そうに真っ赤な顔して首を横に振る。
和葉、そんな顔したってだめや。
私はあんたにスピーチ頼まれたときから、みんなに聞かせてやろう思っとってん。
あんたがどれだけ、隣の彼を好きなのかってことを。
だってそんくらいしか、話すことなん、ないやんな…。

「結婚するって聞いたとき、嬉しかったけど、あぁ2人はなんも変わらんやろな、って、
昔から繰り返しとった夫婦漫才みたいなやりとりを、ほんまの夫婦になってするんやなって。
そう、思いました」
やっぱり、メモを用意すべきやったな…話にまとまりがない気がするわ。

 

式の最中も、昔の2人のことを思い出しとった。
あの頃、
お互い気付かずじれったくしてるんを見てるのもおもろくて、言わへんかったけど、
あんたが片想いしてたことなんなかったんよ。
泣いたり悩んだり迷ったりも…そう、
全部この日に繋がっとったね。

脳裏に浮かぶ今より幼い和葉は、
こんな日が来ることわかってたんかな…。

恋しい人をおっかけて、ゆらゆら、しっぽみたいな髪の毛を揺らして
赤、青、黄色、ピンクに水色、緑、オレンジ…
その日の気分に合わせてるんか、リボンの色を変えて。
最良の日に身にまとう、白い衣装は彼だけのため。

 


今日の京都は快晴で、よかったな。
少し風があったから桜の花びらが舞っとって、和葉の髪や肩に止まるたびに、
服部くんがそれを手に取ってた。
服部くんが触れる瞬間、桜みたいにピンク色に頬を染めて、
初恋が叶ういうんはこういうことかと、あらためて気づかされたん。

 

服部くん、約束して欲しい。
あなたの色に染まるようにと白い衣装に身を包んだ和葉のこと、
一生愛して大事にするって。

そんなことを、あらためて約束する必要なん、ないのかもしれんけど。

和葉、あんた、気づいてる?
隣に座るそのひとが、ずっと幸せそうな顔をしてるんを。
顔が少し赤いんは、お酒のせいなのかもな?
私の前にスピーチした、東京の名探偵ゆう人がさっきから、
にこにこしながら服部くんの写真撮ってるわ。
また、見せてもらったらええよ。

 

「和葉…」
あかん、私のほうが泣いてしまいそうや…。
どうしても言わなあかん言葉だけ言うたら、もう、あとに続く言葉が思い浮かばへんわ…。
ごめんな、大事な席やのに。


昔から、可愛えなって思っとったけど、いちいち言うたりはせんかったけど、
今日は特別よ。

白い衣装に白い肌、頬はほんのり桜色で
隣には、優しく微笑む生涯でただひとりの愛しいひと。

 

「ほんまに、ほんまに……
綺麗やで、和葉」

 

++++++++++

第三者…和葉ちゃんの友人目線のお話でした。
2014年最後の更新は、幸せなお話で締めました。
何回読んでもうーん…て感じもありますが;
京都で白無垢で結婚式…は完全な私の願望です。
今年も1年、こうして続けられたことに感謝です。

2014/12/27 UP

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