Time after teime

いらっしゃいませ

なんで片想いなんだろう

「ただの幼なじみがキスなんせんやろ」

 

「すごいもん見てしまった!」
浮かれながら話す友人の言葉に、考えて考えてやっと覚悟を決めた…その決意は
ことごとく砕け散った。
なんでこんなタイミングなん?そう、思ったけど
下手に気持ち伝えて傷つくなら…と思えば
今知ってよかったんかな、と思う。
ここはひとつ神様に感謝するべきなのかもしれん。


最初はただのファンやった。
でも、少し話せるようになったらもう少し仲良くなれたらな、なんて欲が出てきてしまって、
もう、好きやって、認めたほうが楽かな思うて…そう、好きって認めて
近いうちに告白しよう思っとってん。
うまくいく可能性なん、そんなん、ほんの少しの確率でもなかったかもしれんけど
気持ちだけ伝えたら、ちょっとずつでも気にしてくれるかもしれん、て。
なにもせんと、終わってしまうことのが悲しいやんな?

片想いのまま終わるにしても、気持ちは知って欲しいような気がする。
それは、きっと、おんなじ気持ちやったと思う。
彼女も。

 

「なんで片思いなんやろ……」

放課後、教室で、彼女がため息まじりに呟いとったんはほんの1ヶ月前のこと。

「遠山さん、どないしたん?」
「あ、ごめん。声に出とった?もう誰もおらんと思っとったから…」
「恋の悩み?片思いなん?」
「恥ずかしいわぁ」


遠山さんの好きな人。
知らない人っておるん?てくらい、有名な人。
最初は2人、付き合っとるんかな?て、思ってたけど
というか、もう周りはみんなそう思ってるかもしれんけど
少し悲しげな顔で「なんで片思いなんやろ」と言葉を漏らすくらいには
彼女の恋の悩みは深刻やったん。


「もうずっとずっと、片想いや。
こんなに近くにおるのにな、難しいな…」

遠山さん、
そんな顔をしとっても、
あたしはずっと、遠山さんが羨ましいんよ。


それから少しだけ、話をした。
同じクラスやけどあんまり親しいほどではなかった彼女をあらためてじっと見たら
ほんまに可愛いな、思ったし
うつむき加減に恋の話をする姿はこれまたいじらしくて…

「ごめんな、あんまり話したことないのにアタシ…
愚痴っぽいこといっぱい言うてたな」
「ええよ。悩む気持ちわかるし。
遠山さんが服部くんのことほんまに大好きなんやな、いうのは
めっちゃ伝わった」
「え、あ、アタシ…平次のことなんて一言も言うてないやん!」
「え、今さら誤魔化すん?」


恋のライバルというにはあまりに高いところにいる気がして
おんなじ「片想い」いうワードでくくってしまってはあかんような気がして

「なんで片想いなんやろう」
あたしのほうが彼女の恋に対して疑問を抱いた。


ほんまはあたしの決意なん、その時点で少しぐらつく程度だったのかもしれないん。
今ここで、こんな話題が出る以前に。

 

「キスってなに?誰の話?」
「服部くんと遠山さんやって。
あたし見てしまったん。教室に忘れもん取りに行ったら、誰もいない教室でな…。
付き合い出したって、ほんまやったんな」
「そうなんや…」
「まぁそのあと、なんでこんな所でいきなりするんー、って遠山さん怒り出したから…
また、いつもみたいなケンカ始まってん。あたし全部見てしまったわ。
顔真っ赤にして照れとって、可愛かったけど」
「うん…」
「ちょっと、あんた何そのテンション?
服部くんのことちょっといいかも、ってただのファンやなくて本気やったん?」
「まさか!
高校生で探偵やし、剣道も上手いし強いしちょっと話してみたいな、って思っただけや」
「あの人好きになってもしゃあない、ってみーんなわかってるしな」
「そうそう」

なんや。付き合ってるんやん。
1ヶ月前、「なんで片思いなんやろ」なんて悩んでた彼女は、
今では好きな人からキスされて照れて怒るん。


まだ、大丈夫。
本気なんかじゃなかった。
服部くんには遠山さんがお似合いだって、あたしだって思う。
付き合う前から、いつキスしたっておかしくない状態やったん。

告白なんてとんでもないわ。

言うても言わんくても、きっとなにも変わらない。
服部くんにとっては彼女以外はどうでもいいもの。


遠山さんの片想いが終わったなら、
あたしも…静かに終わらせようと思う。

知られずに、ひっそりと、終わっていく恋もあっていいと思うんよ。


『なんで片思いなんだろう』
あたしのその問いには最初っから、
ーそう、答えははっきり出とったん。

 

++++++++++

平次を好きな女の子視点で。
第三者目線だと平次と和葉をあまりイチャイチャさせられないので
楽しさもその分少なくなっちゃいますね^_^;

2014/11/20 UP

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