Time after teime

いらっしゃいませ

彼女はとても可愛かった。

「なぁ服部、バレない浮気の仕方教えて」
「そんなん知るか」
「お前探偵だろ」
「探偵はどっちかゆうと浮気される側の味方やで」
「オレも彼女欲しいんだけどなー。一人に決められないんだよな」
「その考え方は理解できんわ」


東京にも工藤っていう有名な高校生探偵がいたけれど、大学で知り合ったこいつは大阪から来た服部。
探偵ってなんだ?って、知り合った頃は思ってたけど、話を聞くとこれがなかなか面白い。
けっこう気も合うし、よく一緒に行動している。が、全部が合うことばかりでもなく…。

女の話は全然合わない。理解できないこともしばしば。

オレは、若い頃なんて長くないんだし、せっかくのキャンパスライフ、青春を謳歌しなきゃもったいないんじゃないかって、
いろんな女の子と楽しく過ごすのがいいと思っているんだけど、
この、大阪からきた探偵は、幼馴染のなんとかちゃんに夢中らしい。
まぁこいつは、彼女が好きだとか大事だとかそんなことは言ったりしない、そういう性格だ。
でも、毎日毎日聞いてもいないのに彼女の話ばかりしてくる。

事件の話か、彼女の話。

たいていはあいつのせいでなにがどうしただの、あいつはトロくてオレは振り回されてばかりだの、
時にはほんまに腹立つわ、なんて愚痴みたいなことまで言ってくるんだけど、
オレにはそれが、愛情表現な気がしてならない。


「そういえば昨日も聞かれたんだけど。
服部くんて彼女いるんですかー、って女子に」
「おる、言うといてやー」
「けっこう可愛い子だったぜ」
「興味ないわ」
「もったいないな。お前モテるのに」
「お前ほどやない」
「…否定はしないけど。
選びたい放題じゃねーか。なんで幼馴染なんだよ」
「選んだんや。
ぎょーさんおる女の中から、オレは、和葉を」

…それを言われたら、もう返す言葉もないなって思う。


そうそう、「和葉」ちゃん。
あんまりちゃんと顔見たことないけど、あまりに服部が話に出すから、オレまでなんとなくよく知ってるような…へんな親近感が沸いてしまう。


「ずっと一人の女だけか。珍しいな」
「いや、オレの周りはそんなんばっかやで」
「オレが変わってるみたいじゃねーかよ」

たまたま近くにいた昔から知ってる女の子が、まぁいい感じに可愛く成長したから
そのままなんとなく恋人に発展したって、そういうノリじゃないのか?
オレは他人の恋愛に対してそんな風に思う、そんなやつなんだ。

けど、服部は、自分が彼女を「選んだ」って言う。


「今日もこれから彼女に会うのか?まぁオレはコンパなんだけど。今日はN女と」
「ようやるな。持ち帰りとかするなや。
今日は…和葉バイトやで会わへん」
「さみしい?」
「…別に」
今、間があったぞ?


服部に、こいつを選んだ、なんて言わせる彼女はどんな女の子なんだろうか?

 

「平次―!」

しっかり会ってみたいな、って、思ったちょうどその瞬間に、隣の彼を呼ぶ声がして、
オレも瞬時にその方向を見る。

「和葉。なんや、バイトやないん」
「ちょっと講義早く終わったからな、寄ってみたんよ。
会えるかわからんかったんやけど、よかった、会えて。
久しぶりやな!」
「二日前に会うたやん」
「けど、高校んときまでは毎日会ってたから…二日会わへんのは変な感じするよ」
「せやな、お前のアホな顔は毎日見んと落ち着かんな」
「アホな顔ってなんやのー」

「…和葉ちゃん」
「え?」
わ、やべっ。
服部が毎日話すせいで親近感沸いたとはいえ、ほぼ初対面なのに名前で呼んでしまった。
…軽い男丸出しだな。

「平次の友達?」
「そう、同じ学部の川島」
「はじめまして。平次と仲良うしたってなー」
「あ、うん…」
その笑顔に、一瞬魅入ってしまった。
いやいや、この子は服部の彼女だって。それはそれは大切な。

「よかったな平次、工藤くん以外にも東京で友達できて」
「アホ。うるさいわ。友達くらいできるわ」
「平次、事件の話ばっかりやろー。おもろないよな、そういうときは放っておいてええからな」
「あ、いや…けっこう楽しく聞いてるよ」

そう、事件の話と、『和葉』の話。


「ごちゃごちゃうるさいな。バイト何時からや。
送ってくから行くで」
「送ってくれるん?川島くんは?ええの?」
「こいつは合コンやて。今から」
「合コン!?」
「彼女いないんでー」


「…平次のことは…誘わんでな…」
ちょっと赤い顔して小さめな声でオレに訴えかける。
上目づかいが、なんとも愛らしい。
あぁそうだな、こんな彼女なら
大事にもしたくなるかもな。

「大丈夫だよ。こいつ絶対行かないから。
幼馴染の彼女が大好きなんだって」
「はぁ!? オレそんなこといっぺんも言うたことないで!
こいつや。和葉がオレを大好きなんや!」
「ちょっとなにそれ、平次!
アタシだって言うてないやんそんなこと!」
「言うたことあるやん。ちゅーか顔に書いてあるし」
「言うてない!書いてない!自惚れすぎや!!」

…これって喧嘩してるのか?
このままこの二人の会話、聞いてるのも面白そうなんだけど…あぁ、もうすぐ約束の時間。
オレにも素敵な出会いがあったらいいな、と、いつもは思わないことを思ってみる。
合コンであるわけないか、こんな風に想い合える相手との出会いなんて。


「じゃあオレ行くわ」
「あぁ、また明日な」
「…服部」
「あ?」

「可愛いな、彼女」
彼女には聞こえないように、少し声のトーンをさげて告げる。


「オレんのやで」

さらに小さい声で服部が呟く。
それ、ちゃんと、彼女に言ってやれよ?


「わかってるって。お幸せにー」
なんだかいいもん見せてもらった気がする。


ちょっと不機嫌そうな彼氏の態度に気づいているのかいないのか、
満面の笑みでオレに手を振っている、今日、初めてちゃんと会ったその子…
服部の彼女はとても可愛かった。

 

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大学生、オリキャラ視点です。
前にリクエストで「傍から見たラブラブ平和」というのを頂いて、ずっと色々考えてたんですが、
こういうのはアリでしょうか^^;
「付き合っていないのにラブラブ」というのがやっぱり美味しいのかな、とも。
常にラブラブだなー彼らはv

2014/07/25 UP

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