Time after teime

いらっしゃいませ

ブルーバージン

「…お前、しばらくオレんち来んなや」
「え?なんでっ?」
「集中でけへんから。受験勉強の邪魔やねん」
「なんやそれ…っ」


**********

「…って、言われたんやけど…」

好きな人と付き合えるようになっても、悩みはなんやかんやと尽きないようで
こんな風に休み時間に、いつも友達の千香子に相談してる。

「なに、喧嘩でもしたん?」
「喧嘩なんしてへんよ!喧嘩したって、家に来るななんて言われたことないもん」
「なんも心当たりないん?」
「…心当たりは…」
「なんや」
声は小さくなってしまうけど、ほんまに相談したかったんはこっから先やねん。

「こ、この前な…」
「うん」
「部屋でちゅうしとって…」
「は?あぁ…それで…?」
「服ん中に手が入ってきたから…」
「はぁ…」
赤い顔して小さな声を発するアタシに対して、千香子は少し呆れたような様子で…。
まぁ、いつも、こんな感じなんやけど。
気にせずアタシは話を続ける。

「パチン、てしたったん」
「は?」
「だってイキナリやで!びっくりするやん!
そのあと別に普通やったよ?まぁちょっと口数少なくなったような気もしたけど…」
「パチン、てけっこう強く?」
「どうかな…。いて、って言うてたけど…」
「はぁ…」
「なに?」
さらに呆れた様子でため息つかれとるけど…あれ、アタシ、そんなにおかしなこと言うてる?


「…服部くん、かわいそうやわ」
「へ?」
「彼も男やで。
今までただの幼馴染やった、だーいすきな、かわええ彼女とおんなじ部屋で過ごしとったら、そら、そうなるわな」
「かわええ彼女なんて照れるわ~」
「そこ重要やないから」
「…え」

「どうしても部屋に行きたいんやったらちゃんと覚悟して行き。
今までとは違うんやから」
「か、覚悟て…。アタシら付き合ってまだ半年も経ってへんよ?」
「くっつくまでが長すぎたんやで。遅いくらいやわ」
「…そんなん言われても…」

誰に相談しても、同じ答えが返ってくるんやろか。


そりゃ、アタシやって…まったく考えてへんわけやないよ…。
幼馴染から彼女になれて、理由なく手つなげるようになって、
キスだってしてもらえて
それも最近慣れてきて
その先になにがあるか…ちゃんと、わかってるもん…。

けど、まだちょっと怖いん。恥ずかしいん。

平次にはわからんかもしれへんけど、
こんな気持ち―…。

 

平次、真剣な目をしてた。
触れる手も熱くて
ずっと昔から知ってるのに、なんだか知らない人みたいやった。
アタシも平次に、平次の知らない顔見せるんかなって思ったら、それも怖い気がしたん。

片想いしてた頃に比べたら、こんな幸せな悩みはないとも思うんやけど…。


平次のこともっと、知りたいような知りたくないような
アタシのこと全部、知って欲しいようなまだ知られたくないような

大人になりたいような
まだまだ子どもでいたいような。


あぁでも、そっか、アタシら…
一緒に成長してきたやんな。

 

「和葉、大丈夫やって。
そういう日が来ても、二人ともなにも変わらへんよ」

「ほんまにそう思う?」


『変わらない』…その言葉が、一番欲しかったのかもしれん―…。

 

**********


「なぁ平次…家、行きたいんやけど」

いつもみたいに、一緒に歩く帰り道。
ここ数日は、平次の家の方向には向かわず、一緒にアタシんちに向かって平次はアタシを送り届けて、
来た道を一人で帰っていく。
そんな、すごく違和感のある日々やった。
平次の後姿を見ながらいつも、もっと一緒にいたいのにと、
声にならない想いを心の中で繰り返しとったん。
平次はアタシがおったら受験勉強に集中できん、言うてたけど、アタシは、
こんな状態のほうが勉強なんてできへんのやって。


「家は…あかん」
「なんで?オバチャンにも最近会うてないよ」
「…」
沈黙になって、少しの時間、静かな空気が流れる。

平次が手を伸ばす。頬に触れたかと思ったら、一瞬でその手をひっこめる。
アタシの胸だけは、ずっとドキドキしたまま。

…平次、
触れてくれた手離されるんは、やっぱり寂しいよ。


「…もう、嫌いんなった?アタシのこと」
「なんでそうなるねん。アホか」
「…アホやもん…」
「……その逆や。
オレあかんねん。最近…お前とおると止まらんくなるん。
たぶん、気色悪いことすると思うし」
「…気色悪いなんて、思うたことないよ…」
「叩きよった」
「び、びっくりしたから…。
突然やなくて、ちゃんと言うてくれたら…」
「は?今から触るで、って予告するん?」
「…へんかな」
「へんやろ…」
何を言うても、言い訳みたいになりそうでそれ以上の言葉が出ないよ。


家に来るな、なんて言わんといて。
幼馴染やった頃より、遠くに感じたくないん。

 

「…ええよ」
下を向いて黙るアタシに、平次は静かに声をかける。
顔をあげて、平次を見た。
ちょっとだけ、優しく笑ってる。

「ええって…?」
「家、来てもええで。
オレがなんかして、嫌やったら…
叩くなり突き飛ばすなりしたらええわ」
「そんなこと…」
せーへんよ。


もう、ただの幼馴染やない。
遠くに感じたくないん。
もっともっと近づきたいんよ。

 

「行きたい…」

ちょっとだけ、ドキドキするけど…大丈夫。
きっとな、平次がしたいことと、アタシがしてほしいことは、
おんなじやと、思うから。

 

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高3、付き合って数ヶ月後くらいのお話です。

2014/07/01 UP

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