「まだなんもしてへんのに、なに感じとるん」
「感じてなんかないよ…。へんなこと言わんといて」
「その顔あかんわ。えっろい顔してんで」
「なんやそれ…アホ」
1ヶ月ぶりに平次に会うた。
忙しい忙しいってなかなか会えんくって、気付いたら1ヶ月。
恋人同士が1ヶ月会わないことなんてよくあることやと思うのに、あたしは寂しくてたまらんかった。
こんなに会われへんこと今までなかったし…。
思ってた以上に、あたしは平次がおらなあかんのやな、と思ったら悔しくもなってきて、
会ってもすぐには触らせてあげんどこ、なんて変な意地張ってみたけれど、
平次が部屋のドアを閉めるなり、結局自分からくっついていった。
頬や首筋や肩や腕や…
色んなとこ触って、ケガしてないことにホッとする。
ほんで次は、あたしに触れて欲しいって、いやらしいこと考えるん。
「久しぶりにりぼん…つけとるんやな」
優しく髪に触れながら、平次が耳元で囁く。
「平次の部屋に来るときはけっこうつけとるよ」
「そうやった?」
大学生になってから、頭のしっぽにつけるのを時々、ヘアアクセに変えてるん。
いつまでもりぼんは子どもっぽいかな、思って…
でも平次に会うときはなんとなく、りぼんつけたいなって気分になる。
最初にりぼんをほどくその仕草が…あたしは好きなんよ。
今からお前抱くで、って、合図みたいな気がして。
「オレやっぱり、りぼんのが好きやな」
「…子どもっぽくない?」
「頭になにがついとってもおんなじやろ」
「おんなじなら、なんでもええやん…」
「この、ほどく瞬間がけっこう好きやねん。
ええ匂いするし、これから思いっきり可愛がったろ、って気合い入るん」
「なんの気合いよ…」
あぁ、おんなじこと考えてたんやな。
髪ほどいた瞬間に、シャンプーの匂いが広がるんは、別にりぼんだろうがなんだろうが関係ない思うけど、
ほどかれる瞬間はあたしも好きや。
「1ヶ月空くと…
は、恥ずかしいんやけど…」
「はぁ?お前、なにを純情ぶっとるん。今さら」
「あ、あたしはいつまでも純情な乙女やもん…!」
やたらドキドキして、顔があげられへん…。
平次の顔見るのが照れくさいん。
目が合ったら、もう、動けなくなりそうで。
平次の手が、頭のてっぺんを、髪のさきっぽを、ちょっとずつ触れるだけでビクッとなる。
たぶんあたしは今、頬も紅くなっとって…
平次が言う「感じてる顔」してるんやろか。
「あ…ちょっと待って」
「なんやねん」
その場に押し倒されそうになって、軽くそれを制止する。
「床は嫌や…。背中が痛いよ」
「…はいはい」
抱き抱えられて、平次の、ベッドの上。
やっぱりここが一番好き。
平次の、においがする。
大阪で、平次の部屋で、初めて結ばれた日のことを思い出す。
すごくすごく、嬉しかったことを思い出す。
あわよくば、ここに自分の香りも残して…会えないときでもあたしを想ってくれたらええ。
長いキスの間にそんなことを考えてる。
会えんかった時間を思うと…この、1ミリもない唇の距離が嬉しいん。
普段口の悪い探偵も、こんな優しいキスをするんやな…。
いつもいつも、思うこと。
右手であたしの頬に触れ、うつむく度にゆっくり顔をあげて優しく激しく唇を重ね、
平次は利き手ではない左手でりぼんの結び目を解く。
高い位置に束ねた髪がほどけて、はらり、肩にかかったらそれが、
今から愛しい時間が始まる、合図。
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