Time after teime

いらっしゃいませ

小さな頃から

「和葉、あんた、お父ちゃんには自分からちゃんと話しなさいよ」
「わかってる」
「お母ちゃんは、あんたが平次君と一緒なら安心やけど…お父ちゃんはなんて言うか、わからへんからな」
「うん…」

 

高3になって、1回目の進路希望調査があった。
平次は、東京の大学に行きたいんやって。
アタシに、「お前も来い」って言うてくれた。
なんの迷いも、なかったんやけど、それはつまり、大阪から、この家から、出る、言うことで…。

アタシは別に、大阪から離れんといかんような夢があるわけではないし、
男にくっついて行くなんて、普通聞いたらなんてふざけた話やろうと思われるかもしれん。
でも、これも、一生に関わることやと思ってるん。
ちゃんと目標とか、勉強したいこととか、行きたい学部とか、そういうのは真剣に考える。
一つだけどうしても、ここにおったら叶えられんことがあるん。
それはアタシが、一番叶えたい夢なんよ。ずっと願ってたことなんよ。


アタシは、ずっと、平次の―…。

 


「お父ちゃん、あとで話があるんやけど…」
「なんや。今じゃあかんのか?」
「い、今でもええけど…」

久しぶりに帰ってきて、ダイニングの椅子に腰掛けるお父ちゃんに話しかける。
「まぁお前も座れや…」
「うん…」

なんとなく、言葉が重い気がするん。
もしかしたら、わかってるんかもしれん…アタシが、なにを話したいのか。

「だ、大学なんやけど…」
「うん」
「ここから通えんところに行きたいんやけど…」
「…どこや」
「……と、東京…」
なんで東京なん?て、絶対そう来ると思うて答えは用意してる。
でもそれ言うんはすごく怖い。
お父ちゃん…なんかいつもより真剣な顔してるし…って、真剣な話してるんやけど。


「…平次君か…」
「…え?」
先に平次の名前を出されて、ちょっと焦る。

「付き合ってるんやろ。府警に来たとき聞いたで」
「平次に聞いたん…?」
「あぁ。『付き合ってます』って、頭下げられた」
「平次がそんなことするん…」
意図して黙ってたわけやなかったけど、なんとなく、お父ちゃんには話せんくて…
お母ちゃんから言うてくれたらそれはそれでええ、思うてたけど、話してなかったんやな。
平次が言うたんや。アタシと、付き合ってるって。

「これからはもっといろんなところ連れ回します、言うてたわ。遠慮もなく」
「そう…」
「まぁ…いずれこんな日が来るとは思うてたけど」
「お父ちゃん…」


「…で? 離れたらダメんなるんか?お前らは」
「…」

遠距離恋愛になったらダメになるか?
そんなことない。自信あるよ。
近くにいたって遠くにいたって
アタシが平次を好きなのは変わらないし
平次ももし、同じ気持ちでいてくれるんやったら…
ダメになんてならない。

けど、そういうことと違うねん。
そうやなくて…


「アタシ…平次と、離れたくないんよ…」


声に力がなくなる。
なんとなくお父ちゃんの顔見るんが怖くて下を向いてしまう。


ずっと、平次の、側にいたい。

それは幼馴染だろうが恋人だろうが関係なく、
小さな頃から変わらない願いなん…。


「…あんなにちっさい頃からずっと一緒におったのに、まだ一緒におりたいんか。
よう、飽きもせんと」


少し沈黙が続いたあと、お父ちゃんが優しく笑いながら口を開く。

「まだ嫁にやるわけでもないのにな、なんや、寂しいな」
「…ごめん…。卒業したら…帰ってくるよ…」
うつむくアタシの額に、大きな手が触れる。
平次にされるそれとはまた違ったぬくもりを感じる。


「実を言うとな、その話も聞いとったん」
「え?」
「和葉連れて行きたいです、って。
相変わらず図々しいガキやな、と思ったわ」
「そ、そうやったん…」
「まぁ、和葉が危ない目に遭うたときはいつも、助けてくれたんはあの悪ガキやったでな」
「うん…」
「どこへでも付いて行くお前も悪いんやで」
「うん…わかってる」

進路の話をしてたはずなのに、平次との話がメインになってしまって少し照れる。
まさかお父ちゃんとこんな話をする日が来るとは。

 

お父ちゃんが
逢わせてくれたんよ、平次に。


幼い頃のあの出会いがなくても、もし高校で平次に出会ってても、
アタシは今とおんなじように平次に恋してたかもしれへんし
恋なんてしてなかったかもしれへん。
どっちにしろ、小さい頃からのアタシらの特別な絆は全部、なかったゆうことになるん。

アタシは平次を「服部くん」って呼んで、平次はアタシを「和葉」なんて呼ばずに、
アタシは「ふーん、あの人探偵なんや」って他人事みたいに、近づくこともできず、
平次の優しいところも強いところも、キラキラも、自分のこんなあったかい気持ちも、
今みたいに全部は知ることはできてなかったんやと思う。

アタシらに『幼馴染』って絆をくれたんは、お父ちゃんと平次んところのオッチャンやから。
だから、お父ちゃんにはどうしても、許してほしかったん。

平次の側から離れんことを、認めて欲しかったんよ…。

 

「でも、一緒に暮らすいうんは、なしやからな」
「そ、それはわかってるよ…!
…って、それって家出てもええってこと…?」
「…和葉、お前昔から、ちょっと平次君に会えんとえらい暗い顔して過ごしとったん、気づいとったか?
毎日あんな顔で過ごされたら、たまらんでな」
「そう…やったかな…」


小さな頃から、見透かしとったん、
アタシの、平次への気持ち全部。

ほんまは平次から聞く前から、
アタシらのこと、知っとったんやないかな。
お父ちゃん、刑事やもん。

 

「…ちっさい頃からずっと一緒におったのに、まだ一緒におりたいんか。
ほんま、よう、飽きもせんと…」
「…お父ちゃん…さっきもそれ言うたで…」

ほんの少し、ため息まじりな声だったんは…
アタシ、気づかんかったことにするよ。

 

++++++++++

「アタシ…平次と、離れたくないんよ…」
このセリフをお父ちゃんに告げる和葉ちゃんが書きたかったんです。
しかしこの二人のやりとりがさっぱりで…いつもながら捏造です^^;

2014/05/27 UP

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