「まずな、頭…なでて欲しい…」
「またそれか」
「好きなんよ。気持ちええ…」
「お前、寝るなや」
3月14日。
夜、平次の部屋の、ベッドの上、
一緒に布団に入って、いつでも、寝られる体制や。
もちろん…このまま寝るつもりなん、ないんやけど…。
「そんでな、きのうあった事件のこと、話してや。危ないゆうて、連れてってくれんかったやん…」
「今、そんなん聞きたいん?」
「見たいんやもん、平次が事件のこと話すときの、得意気な顔。
ほんまは近くで推理するところ、見たかったんやけど」
「わかった、最初っから全部話したるで、心して聞き」
「うん」
ホワイトデーに、何が欲しい、って聞かれたけど、そんなん急に思い付かなかったから…
欲しいものなんてないから、アタシのして欲しいこと全部して、って無茶ぶりしてみたん。
そしたら案外あっさりと、ええよ、って言うてくれた。
春はそこまで来てるけど、まだ肌寒かったりもして、
やっぱりこうして平次の腕の中にいるとあったかいん…。
幸せやって、実感できて嬉しい。
「おい、和葉、聞いとったか?」
「え、聞いてたよ!ちょっとトリック難しかったけど」
「そうかー?単純やん」
「あんたにはそうでもな…。けどさすがやな、そんだけでわかるんやね」
「アホ。オレを誰やと思うとるん」
「そうやな」
「ほかには?何して欲しいん?」
「ほかは…」
ちょっとだけ声がこもる。
平次の部屋のベッドで、一緒に布団ん中に入っとって、
真横に大好きな平次がおって…
して欲しいことなん、決まってる。
けどそれ…アタシが言うん…?
そう言い出したのは、確かにアタシやけど。
「…て欲しい…」
「は?なんやて?」
「キス…して欲しい」
い、言ってしまった。
…恥ずかしいわ!めっちゃ!
でもそんなん思う余裕もなく、平次の唇がアタシに触れる。
それから…。
ちょっと待って、このキスは…あかんて。
「ちょ…平次…!」
「なんやねん」
「そ、そんなんしたら、キスだけで終わらんくなるやん…」
「あ?そのつもりやないんか」
「そ…それは…」
「おいおい、一緒にベッドで寝とってキスだけして終わるとか、どんな生殺しやねん」
「たまには…よくない?
手だけ繋いで寝る、なんてのも」
「よくないわ、ドアホ!!その願いだけは聞かんでな」
「怒らんでや…。
そんなんアタシやって無理やし…」
「せやろ。
ほら、して欲しいこと言うてみん」
「な、なんやて…!?
あんた、アタシにやらしいこと言わせるん!?言わへんわ!!」
「…ほー、ほんならオレのしたいようにするけど」
「ええよ…」
平次にして欲しいこと。
たくさんあるから…言葉に、ようできんもん。
されて嫌なことなんか、ないん。
平次の、全部をくれたら、
アタシはそれで満足なんよ。
そう、思うて眠りについたのに。
朝、目が覚めたら、アタシは目を疑った。
「平次、これなに!?」
「あ?なに、てお返しや」
「やって、なんもいらん言うたやん!」
「男よけや。
そんなんよー買わんでな!」
男よけって…。
そんなもん、別に必要ないけど。
右手の薬指、キラキラ光る小さな石。
「これ、本物…?」
「安もんや」
「可愛いな。安くないやろ」
「高いやつは…お前にはまだ早いわ。
また、な」
また、って…。
それ、どういう意味…?
あえて聞き返さんけど。
「ありがとう」
3月15日。
朝、一緒に目覚めるベッドの上。
キラキラ、自分の指を眺めるアタシに、照れてるんを悟られんようにか、
平次はまた、目を閉じてしまった。
ガラにもないことするからや。
似合わへんで。
でも、嬉しい、ありがとう。
「大好き」の言葉を添えて渡した本命チョコの見返りは、あまりに大きな幸せで、
こんな気持ち味わえるんやったらもっと早くに伝えとけばよかった、なんて思ってしまうけど、
言えなかったんやな…昔の、アタシは。
今となっては、ただ、なつかしい思い出やけど。
「あ!
いちばんして欲しいこと、言うの忘れとった!」
「なんやねん」
「…言うてや」
「あ?」
「アタシが、バレンタインに言うたこと…今度はアンタが言うてくれる番やろ」
こんなこと、ほんまは、言うてって頼むのもおかしい気もするけど…。
「残念やったな。もう15日になったから、和葉のお願い聞くんは終わりや」
「えーーー!なんやそれ、ケチやな!」
「来年また言うてやー」
やっぱり、甘いだけやないのが平次なんやな…。
「そんなん言うて…来年は平次じゃない人に本命チョコ渡しとるかもしれんよ」
なんてな。
そんなこと、あるわけないけど。
「………。」
「…平次?」
「お前…冗談でもそんなこと言うなや」
「え…」
強くアタシの腕を掴んで、アタシに覆い被さって、
平次は真剣な目をしてる。
「男よけ、言うたろ。
和葉は一生オレだけのもんや」
「平次…
そんなん、わかってる…」
「言わすなや」
「たまには言うてくれたら嬉しいよ」
大好き、って言葉より
何倍も嬉しくて
何度も頭の中、平次の言葉がエコーされる。
いつだったか、前にも、
そんなようなこと言うてくれたよな。
さすがにもう、はぐらかしたりせんやろ。
証拠だって、あるし。
アンタがアタシの身体につけた、赤い跡とか…
って、そういうこととちゃうわな!
「お前、さっきからひとりでにやけたり顔隠したり気色悪いんやけど」
「失礼やな。アンタのせいやのに…」
「あ?」
「ほんまは気色悪いなんて思ってないくせにー。可愛くて可愛くてしゃーないやろ」
「はぁ!?」
「キレイやな、指輪」
「まぁ、ええわ…。
そういうことにしといたる…」
「ん?」
「あーなんか寒いな。布団から出られへんわ」
「もうちょっと寝てようや。なぁ、頭なでて」
「…またか」
めんどくさいな、しゃーないな、って言いたそうな顔しながら
優しい大きな手が、
しっぽのないアタシの頭をなでてくれる。
さっき、もうアタシのお願い聞かん、って
平次、言うてたのにな。
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