優しい気持ちで、目が覚めた。
その瞬間、真横にあったんは…
平次の、優しい顔。
あれ、あたし、さっきまで、
怒っとったはずやけど…。
「やっと起きたか」
「平次はずっと、起きとったん…?」
「そうや。お前のアホみたいな寝顔見とったん」
「アホってあんた…ほんまに失礼やね」
「腕枕して、頭なでるんが、ええんやろ?」
あぁ、覚えてたんやね…、
初めての日に、言うてたこと。
「腕、痛ない…?」
「あぁ、もうえらい痺れとるわ」
「そんなんせんでもええのに」
頭、なでられとるんが気持ちよくて、いつの間にか寝てしまってた…。
この前と、逆やな。
「なぁ…あ、あたし恥ずかしい声出してなかった…?」
「なんやねん、恥ずかしい声て」
「やから…その…」
「あん、とかきゃ、とかそんなんか?」
「ちょ…繰り返さんでや、アホ…!」
「そらもう出まくっとったで、えらい可愛らしい声がな。なんで自分覚えてへんねん」
「いやや~やめてや~」
「ええやん、オレしか聞いてへんのやし」
「あんたに聞かれるんが恥ずかしいやん…」
「なんでやねん。他に誰に聞かせるんや。そんなんで恥ずかしい言うとって、この先どないするん」
「…」
初めてのときはな、そこまで気にする余裕がなかってん。
けど、あらためて我にかえると、
やっぱり、恥ずかしいわ…。
「いつものやいやい言いよる声もええけどな」
「なんやそれ…」
そうや、あたしら、喧嘩しとったん。
いつもの、くだらない理由で、くだらない喧嘩。
いつまでもふてくされてるあたしを抱き締めて、キスで口塞いで、
そのまま、自分のペースに持っていきよった。
なんであたし、流されたんやろか…。
「ちょっと平次!あたし、あんたに怒ってたんやで!話はまだ終わってへん!」
「あぁ、そうやった?ええよ、聞くから言うてみん」
「え…っ。せやから…あの…」
ちょっと待ち。
いったん中断されたあとに言えへんやろ。
あんな優しく、触れられたあとに…。
「もう、ええわ…」
「そうか?まぁ仲直りっちゅーことで」
「なんや、うまくのせられた気分やけど…」
あたしら、昔から、よう喧嘩しとったな。
些細な理由で。
どっちがごめんて言うわけでもなく、気がついたら元通り。
昔より、少し、大人になって
昔とは、違う、仲直りの仕方覚えてしまったね。
喧嘩してたときはちょっと気分悪かったはずやけど、
優しい気持で目が覚めた。
こんな仲直りも、悪くない、って思うん。
「ちょっと、なに触っとるん…!」
頭、なでてくれとったはずの手が、いつの間にか下がってきたで。
もうええって言うたからって、調子にのりすぎとちゃうん?
「もっぺん、鳴かしたろうかな思って」
「は、恥ずかしいこと言わんでや…!
平次のドアホーーー!!」
「ええよええよ、アホで結構」
ニヤリとイヤらしく笑い、また口を塞ぐ。
ほんでまた、流されてしまうあたし。
いやや、やめてや、ちょっと待って、
そんな言葉は本心やないから、
喉の奥で止まってしまうん。
逆らえないんよ、こうされるんが心地よくて。
「アホ…アホ…平次のアホ…」
「和葉のアホ、は好きって意味やろ」
「あんたやって…お互い様やん…」
仲直りどころか、今度は、喧嘩になる前に、
二人であまーい世界へ。
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