「なんや工藤。それほんまか?
わかった、すぐ行く」
あ、平次の顔が変わった。
事件やな。
今日の昼からのデートも、延期、やな…。
「っちゅーわけで和葉、お前も行くやろ?」
「え?アタシ?」
「なんや。昔からついてきよったやん」
「そうやけど…」
そう、平次が事件解きに行くとき、アタシはたいていくっついて行った。
けどアタシが行ってもなんの役にも立たんし、かえって足手まといになったり、平次を危ない目に遭わせることもしばしばあったわけで…。
たまにはおとなしく、待ってたほうがええんやないかって、思うこともあるん。
「アタシがついていっても、平次トロいだのどんくさいだの言って迷惑そうやんか。
なんか、アタシを連れて行くメリットってゆーか…ええことあるんか…?」
「は?」
こんなこと言うんは初めてやけど、よう考えたら誰しもが疑問に思ってることやないやろか…。
「…事件ゆうことはな、」
「うん?」
平次が静かに話し出す。
「殺人とかやったらへんな死体も見なあかんし、そうやなくてもたいていは後味悪いやろ」
「ま、そうやね…。
けどあんた、死体見るのなん、なんとも思わんやろ」
「オレやって見たくて見とるわけとちゃうわ!」
「そうなんや…」
「あたりまえや。どこに好き好んで死体見るやつがおるん」
けっこう平次…自分から好んで寄ってく気するけど…そうやな、推理するためやもんな…。
「で、事件解決したとするやろ。まぁその瞬間はえらい快感やしよっしゃー!って思うわな」
うん、知ってるで。
平次がいちばんキラキラする瞬間やな。
アタシもその瞬間を待っとるん。
「せやけど、たいてい犯人の動機は身勝手やし、色々理不尽なときもあってな、まぁ実際人が殺されとるわけなんやから、100%気分爽快、とはいかへんやん」
「そうやな…」
「そこでや。推理モードからぬけた瞬間に目に入ってくるのがお前のその、マヌケな顔やねん」
「ま、マヌケ…?
なんやの、マヌケって」
「その、なーんも考えてないようなアホな顔見ると、日常に戻るゆうか…
ホッとするんや、オレは」
「………」
ちょっと待ってや。
これは…褒められてるのかけなされてるのか、ようわからんくなってきたんやけど………。
ん?
褒められてなんかまったくない…よな?
「ようするに、やな…」
なんや?
はっきり言うたらいいわ。
マヌケだのアホだの…
彼女に言うやつがある?
ほんまに、昔から全然変わらへん。
まさか彼女や思うてるのはアタシだけで、あんたいまだに子分や思うてるんとちゃうやろな…。
「……」
「もうええわ。はよ行き。
マヌケなアタシがそばにおっても邪魔なだけやし。
あんたの好きなもん作って待っとったるから」
「せやから!ちゃうんやって、来て欲しいんやって…
その…なんていうか…
い…癒されるんやって…」
え?
「ちょっとなに…?聞こえんかったけど…?」
「もう言わへんで」
「なんやの!」
「ごちゃごちゃうるさいねん!
工藤も姉ちゃん連れてくるんやでお前も来たらええねん!近くで姉ちゃんときゃいきゃい騒いどったらええわ!」
…平次、顔が赤いけど
大丈夫なん?あんた…。
「そっか…蘭ちゃんも来るんか…。
せやったら行こうかな」
「そうや。最初から黙って付いてこればええんやわ。時間ばっかくってしまってしゃーないわ」
「アタシのせいなん?」
そっか…
そういうことなんやな…。
あたしが平次にくっついて行くんは、ちゃんと理由があるんやけど、
平次が心配やし、平次の側におりたいって理由があるんやけど、
平次にも、アタシを連れて行く理由があったんやな。
ほんなら、付いて行くよ。
これからも、ずっと、
平次の行くとこ付いて行くわ。
来るな、って言われん限りはな。
「なぁ、アタシのこと、癒される、って思うたのは最近なん?
それとも、付き合う前から思ってくれてたん?」
「な…お前、聞こえとったんか!!」
「なぁ、どうなん?平次」
「………そらお前、ずっと前からや。
いちいち言わせんなや」
「そっかぁ、子分や思われとったときから、アタシは平次を癒しとったんやな」
「子分言うたんは悪かったってなんべんも言うとるやんけ…」
平次が申し訳なさそうに言う声を聞きながら、少し頬がゆるんでしまった。
あぁ、今から事件現場に行くゆうのに、ほんま、不謹慎やわ、アタシ。
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