Time after teime

いらっしゃいませ

守って、守られて。

『なぁ平次、ちゃんとあれ、持ってる…?』
『あぁ、持ってるから心配すんなや』

そのひとつの会話で、あたしは今日も安心してあんたを待っていられるんやで。

*****

「ねえ、新一たち遅いよね。大変な事件なのかな…」
「そうやね…、けどそのうち帰ってくるで。二人が一緒ならパパッと解決するやろ!」
「けど、なんか危ない事件ぽいし…大丈夫かな…」
「大丈夫やって!平次、御守りちゃんと持っていってるし。
その平次と一緒におるんやったら、工藤くんだってなんともないって!」
「御守り…か」

工藤くんが、戻ってきてまだ数ヵ月。
やっぱり相変わらず、平次と一緒に事件や推理やって走り回ってる。
今日も、「和葉と姉ちゃんは危ないから待っとけ」って言い残して、二人で行ってしまった。
ホテルの部屋で待ちぼうけをくらっている、あたしと蘭ちゃん。

まぁ、いつものことやね。
そのたびに、蘭ちゃんが心配そうな横顔を見せるんやけど…。

あたしその気持ち、誰よりもわかるよ。
あたしやって心配やもん。おんなじ気持ちや。
平次、怪我してへんやろか、危ない目に遭うてへんやろか、
考え出したらきりがない。

好きな人が探偵、ゆうのは、いつもこんな気持ちと付き合わなあかんよね。

なんべんも、心配でたまらない夜を過ごしたり、
もしかしたら…なんて想像して、泣いたこともあったな。

特に工藤くんは、半年間も、帰って来なかったわけやし、蘭ちゃんはつらいな、
また、あんなことあったらどうしようって、思うよな…。


「ねぇ和葉ちゃん、御守り、新一にも作ってよ」
「え?」
「和葉ちゃんの御守りってすごいよく効くじゃない!作ってほしいって頼まれるくらいだし。
私も、新一が危ない事件に行くたびに、御守り持ってるから大丈夫、って安心できたらいいな、って」
「蘭ちゃん…せやったら、あたしが作っても、意味ない思うよ」
「え…?」
「あたしは、神様とちゃうんやから」


蘭ちゃん、いつやったか、工藤くんのための晴れを願う、てるてる坊主を見せてくれたよな。

きっと、あれとな、おんなじなんよ、あの御守りは。


「そうかぁ…そうだよね。
けど服部くん、いつも持ち歩いてるよね。そういうタイプに見えないのに」
「はじめはな、嫌がってたんよ」
「そうなんだ」
「あたしのために、ずっと、持っててくれてたんやないかな…」
「え?」


「もう、何年前になるんかな…」

平次に御守り渡したんは、いつやったかな。

「最初渡したときな、こんなもん持ち歩くん恥ずかしい、オレは御守りとか神様とか信じへんねん、自分のことは自分で守る、言うてたんよ」
「言いそうだね」
「けど、なんだかんだでもらってくれたん。優しいやつなんよ、ほんまは」
「うん」
「そのあとかな、ちょっとずつ、平次、危ない事件とか解きに行くようになったん…」

「心配でしゃーないんやけど、あたし、だめやねん。事件解きに行くゆう平次のこと、止められへんねん。
生き生きして推理しよる姿見たい気持ちのが、勝ってしまうんよ」
「わかるよ。私もそう。そういうときの新一って、止められないんだよね」
「あたしがな、あまりに心配そうな顔ばっかするから、ある日平次、言うたんよ。
『ちゃんと御守り持っていくから大丈夫や』って」
「へー…」
「あたしが作った御守りで、どんな効果があるん、て思ったけどな、その言葉聞いたらなんか嬉しかったし安心してしまって…。
平次はきっと、自分の身を守るためよりも、あたしに心配させんために持って行ってるんよ。
したら、ほんまに守ってくれとるやん、あの御守り」
「うんうん。コナンくんを守ってくれたこともあったよね!まぁ、あのとき服部くん、撃たれちゃったけど…」
「まぁ、あれはしゃーなかったよな…けど、命には関わらんかったし」
「…でもほんと、あの御守りの効き目はすごいよね。
和葉ちゃんの愛のパワーだね!
神様より強力な」
「もう蘭ちゃん~、やめてや、照れるやん」

せやから、それは、蘭ちゃんやって同じだって!

工藤くんやってな、
蘭ちゃんに心配かけたくないって気持ちが、いつも自分の身を守ってるんよ。


…平次もそうやって、信じてるよ。

 

世界に二つしかない、御守り。
あたしが作った、はたからみたらなんの効力もなさそうな、ただの袋。

けど、もう、あれがないとだめなん。


平次が御守り、携帯につけてくれてるの見たら嬉しいんよ。
平次が御守り、首からかけてくれてるの見たら嬉しいんよ。

「こんな御守りのどこがいいん」って言ってたくせに、持ち歩いてくれてるの見ると幸せな気持ちになるんよ。


危ないかも、って思っても、あれがあるから大丈夫、って
あたしはいつも安心して平次のこと待っていられるん。

大丈夫や、心配すんなや、って優しく笑う平次のこと、
心から信じられるん。

 

あの御守りに守られてるんは、

きっと、あたしのほうなんよ。

 

「あ、新一からメールだ。
無事解決したから、今から戻るって」
「よかったな。
帰ったらまた長々と事件のこと聞かされるで~」
「そうだね。でも、なんでか、飽きないんだよね」
「あたしもや」

蘭ちゃんもあたしも、自然に笑顔になる。

無事に帰ってきた恋しい人が、得意げに自分が解決した事件について語る時間。
ほっとするな。
蘭ちゃん、そこもきっと、おんなじ気持ちよ…。

 

自分で作った御守りや、誰に感謝したらいいかわからへんけど…


今日も、平次のこと、守ってくれてありがとう。

 

++++++++++

「お守りネタでなにか書いていただけないでしょうか?」と、リクエストいただきました。
ありがとうございました。
御守りネタはけっこう他の方も書かれてると思うのですが、
私はほんとに…「“お守りネタ”で会話する人たち」のお話になってしまいました。
平次出てこないし(笑)
こんなのでご期待に添えられているのか…不安なんですが…。
いつか、平次サイドのお守り話も書いてみたいかも…!

19巻、和葉ちゃんがはじめて登場したときの回の平次とのあのやりとり…

「平次!ちゃんとあの御守り持ってんの?」
「ああ持ってるで。心配すんな!」
あのときの平次の優しい顔ったら…!
これこそ、平次がいっつも御守りを持ち歩いてる理由のすべてじゃないのかな、と思いました。
だから、自分の身を守るためじゃなくて和葉ちゃんに心配させないために持っていく、って解釈をしてみました。

2013/11/11 UP

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