『なぁ平次、ちゃんとあれ、持ってる…?』
『あぁ、持ってるから心配すんなや』
そのひとつの会話で、あたしは今日も安心してあんたを待っていられるんやで。
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「ねえ、新一たち遅いよね。大変な事件なのかな…」
「そうやね…、けどそのうち帰ってくるで。二人が一緒ならパパッと解決するやろ!」
「けど、なんか危ない事件ぽいし…大丈夫かな…」
「大丈夫やって!平次、御守りちゃんと持っていってるし。
その平次と一緒におるんやったら、工藤くんだってなんともないって!」
「御守り…か」
工藤くんが、戻ってきてまだ数ヵ月。
やっぱり相変わらず、平次と一緒に事件や推理やって走り回ってる。
今日も、「和葉と姉ちゃんは危ないから待っとけ」って言い残して、二人で行ってしまった。
ホテルの部屋で待ちぼうけをくらっている、あたしと蘭ちゃん。
まぁ、いつものことやね。
そのたびに、蘭ちゃんが心配そうな横顔を見せるんやけど…。
あたしその気持ち、誰よりもわかるよ。
あたしやって心配やもん。おんなじ気持ちや。
平次、怪我してへんやろか、危ない目に遭うてへんやろか、
考え出したらきりがない。
好きな人が探偵、ゆうのは、いつもこんな気持ちと付き合わなあかんよね。
なんべんも、心配でたまらない夜を過ごしたり、
もしかしたら…なんて想像して、泣いたこともあったな。
特に工藤くんは、半年間も、帰って来なかったわけやし、蘭ちゃんはつらいな、
また、あんなことあったらどうしようって、思うよな…。
「ねぇ和葉ちゃん、御守り、新一にも作ってよ」
「え?」
「和葉ちゃんの御守りってすごいよく効くじゃない!作ってほしいって頼まれるくらいだし。
私も、新一が危ない事件に行くたびに、御守り持ってるから大丈夫、って安心できたらいいな、って」
「蘭ちゃん…せやったら、あたしが作っても、意味ない思うよ」
「え…?」
「あたしは、神様とちゃうんやから」
蘭ちゃん、いつやったか、工藤くんのための晴れを願う、てるてる坊主を見せてくれたよな。
きっと、あれとな、おんなじなんよ、あの御守りは。
「そうかぁ…そうだよね。
けど服部くん、いつも持ち歩いてるよね。そういうタイプに見えないのに」
「はじめはな、嫌がってたんよ」
「そうなんだ」
「あたしのために、ずっと、持っててくれてたんやないかな…」
「え?」
「もう、何年前になるんかな…」
平次に御守り渡したんは、いつやったかな。
「最初渡したときな、こんなもん持ち歩くん恥ずかしい、オレは御守りとか神様とか信じへんねん、自分のことは自分で守る、言うてたんよ」
「言いそうだね」
「けど、なんだかんだでもらってくれたん。優しいやつなんよ、ほんまは」
「うん」
「そのあとかな、ちょっとずつ、平次、危ない事件とか解きに行くようになったん…」
「心配でしゃーないんやけど、あたし、だめやねん。事件解きに行くゆう平次のこと、止められへんねん。
生き生きして推理しよる姿見たい気持ちのが、勝ってしまうんよ」
「わかるよ。私もそう。そういうときの新一って、止められないんだよね」
「あたしがな、あまりに心配そうな顔ばっかするから、ある日平次、言うたんよ。
『ちゃんと御守り持っていくから大丈夫や』って」
「へー…」
「あたしが作った御守りで、どんな効果があるん、て思ったけどな、その言葉聞いたらなんか嬉しかったし安心してしまって…。
平次はきっと、自分の身を守るためよりも、あたしに心配させんために持って行ってるんよ。
したら、ほんまに守ってくれとるやん、あの御守り」
「うんうん。コナンくんを守ってくれたこともあったよね!まぁ、あのとき服部くん、撃たれちゃったけど…」
「まぁ、あれはしゃーなかったよな…けど、命には関わらんかったし」
「…でもほんと、あの御守りの効き目はすごいよね。
和葉ちゃんの愛のパワーだね!
神様より強力な」
「もう蘭ちゃん~、やめてや、照れるやん」
せやから、それは、蘭ちゃんやって同じだって!
工藤くんやってな、
蘭ちゃんに心配かけたくないって気持ちが、いつも自分の身を守ってるんよ。
…平次もそうやって、信じてるよ。
世界に二つしかない、御守り。
あたしが作った、はたからみたらなんの効力もなさそうな、ただの袋。
けど、もう、あれがないとだめなん。
平次が御守り、携帯につけてくれてるの見たら嬉しいんよ。
平次が御守り、首からかけてくれてるの見たら嬉しいんよ。
「こんな御守りのどこがいいん」って言ってたくせに、持ち歩いてくれてるの見ると幸せな気持ちになるんよ。
危ないかも、って思っても、あれがあるから大丈夫、って
あたしはいつも安心して平次のこと待っていられるん。
大丈夫や、心配すんなや、って優しく笑う平次のこと、
心から信じられるん。
あの御守りに守られてるんは、
きっと、あたしのほうなんよ。
「あ、新一からメールだ。
無事解決したから、今から戻るって」
「よかったな。
帰ったらまた長々と事件のこと聞かされるで~」
「そうだね。でも、なんでか、飽きないんだよね」
「あたしもや」
蘭ちゃんもあたしも、自然に笑顔になる。
無事に帰ってきた恋しい人が、得意げに自分が解決した事件について語る時間。
ほっとするな。
蘭ちゃん、そこもきっと、おんなじ気持ちよ…。
自分で作った御守りや、誰に感謝したらいいかわからへんけど…
今日も、平次のこと、守ってくれてありがとう。
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