Time after teime

いらっしゃいませ

きれいだと言ってくれた

「なに、泣いとるん」
「泣いてなんかない」

目を閉じて
平次の、身体の重みを感じとったら
なんでやろ、泣いてるつもりなんなかったのに
涙が出とったみたいや…。


昨日、夢で見たせいやと思う。
あの日の、夢。


「お前は昔からよー泣きよる
その顔不細工やで、ほかのやつには見せんなや」
「アホ…。不細工言わんで」


この角度からだと、平次の腕が、肩が、よう見える。
もう、何年も前のことやから、傷なんか残ってへん、て平次は言うけど
あの日のことは今でもよく、覚えとる。


あたしを庇って、守って、
平次が撃たれたあの日。

赤い血が流れて、平次は痛そうにしとって、でもあたしに笑ってた。

あたしはきっと、人生で一番かもしれん…てくらい
泣いて泣いて、

そんなあたしに平次はやっぱり優しかったね。

『お前は絶対オレが守る』
そう言って、肩を抱いてくれた。


銃を向けられたとき、あたしはすごく怖かった。

でもそれ以上に…
もしあのとき、平次になにかあったら…

考えるだけで
今でも、こわくてこわくて。


今、あたしらは世界中の誰よりも近くにおるはずやのに
気持ちも身体も、繋がっとるはずやのに

悲しいからなのか
嬉しいからなのか

それもわからんのやけど

涙が出てくるん。


「なんやお前、どっか痛いんか?」
「痛くなんかない…」
「今日するの嫌やった?」
「…そんなんとちゃう」

 

「平次が…おらんくなったらどないしようって…」

そう言葉に出したら、涙が余計に止まらんくなって…
平次は一瞬、困ったような顔したけど
あたしの涙を拭ってくれた。


その、大きな手の甲…あたしがつけた傷も
いつの間にか消えてたね。

「お前なにアホなこと言うとるん。
オレはどこにも行かへんわ!
おらんくなる理由がどこにあるん!?」

「せやけど…」

「こんな泣き虫なお前残して、どこへも行けんやろ
なぁ、和葉ちゃん」

「やめてや…そうやって茶化すん…」


だって、あんた探偵やもん。
これからもいっぱい危ない目に遭うだろうし
また撃たれたりするかもしれん。

心配したらキリがないよ…。

けど…

なにがあっても、あたしのところに帰ってきて欲しい。
アホやバカやって憎まれ口叩いて
いっぱい喧嘩してもいいから。


ほんでいつだってこうして

いっぱい愛して、抱き締めて欲しいよ。


「どこにも行かへんし、いなくなったりせんから、信じてや」
「うん…」
「もう泣くなや」
「うん…」


平次、心配しとるし
早く泣き止まな…。


いちいち言うことが優しいから
なかなか涙がとまらへんやん………。

 


「しゃーないなぁ、今からお前が一瞬で泣き止むこと言うたるわ」

「え、なに?」

あたしの耳元、静かに平次が囁く。


「和葉、きれいやで」

 


なんやそれ!

あまりに似合わなすぎて可笑しくて笑えて

自分で言っておいて顔赤くしてる平次見たらまた可笑しくなって

 

あたしは泣き止むどころか
また、泣いてしまった。

 

++++++++++

『きれいだと言ってくれた』 ♪宇徳敬子 

すごく色っぽい歌詞で好きなんです。
絶海の、小説のほう読みながら書きました。
映画ではカットされてしまった、平次の『安心せい、和葉。お前は絶対オレが守る……!』って台詞のためだけに、小説買ったんです。(カットするな!!その大事な台詞をカットするな~~!!)
あぁこの台詞、堀川さんの声で聞きたかった…。
 
2013/10/12 UP

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