Time after teime

いらっしゃいませ

シルエット

最悪や。

なんでこんな日まで、
アタシら喧嘩しとらないかんの。

原因は大したことないようで、けっこう大したこと。やと思う。

あの推理ドアホが、事件の解決祝いやゆーて、飲んで騒いでそのまま寝てしまって、
……寝坊したんや。

この大事な日に!!

ほんで何?
アタシの準備が遅いゆーてせかすん。
アンタ起こすのに時間がかかったからやで!!

しかもアンタ、髪、ハネとるで。
今日くらい、もう少し気使ったらどうや?

今日この日を迎えるまででも、何べん喧嘩したやろか…。

アタシはドレスも着たい言うとるのに、
「オレはタキシードなんこっぱずかしいもんよう着んわ!」言うて、
10回式場通ってプランナーさんに説得してもらって、よーやくや。アンタが折れたん。

アンタは相変わらず事件、事件、事件で
打ち合わせもロクに来んで、
料理も引き出物も演出も
ぜーーーーーーーーんぶ
アタシとオバチャンで決めたんやで。
まぁ、それはけっこう楽しかったからええんやけど…。

そのあとに、もっと安いケーキにしたらええとか料理は和食に変えてくれとか
ごちゃごちゃ言いよって、

ほんま、何べん喧嘩したかわからんよ…。
無事今日を迎えられて、始まる前からほっとしとるわ。


せやけど、今日は朝喧嘩してからまともに口聞いとらん…
緊張しとるせいもあってか、なんて話しかけたらいいのかわからんのや…。
だいたい、アタシから話しかけなあかんの?
あっちが謝ってこればええんやわ。

「はぁ……」

これは、マリッジブルーというより…
ただのブルーや。

せっかくキレイに化粧もしてもらっとるのに、可愛い顔もできひんわ。


「かーずはちゃん」
ブルーなアタシの後ろから、なんや天使のような声が…
そう、この声は…
「蘭ちゃん!」

「和葉ちゃんきれい~~ 服部くんにはもう見せたの?」
「…あんなやつ知らんわ」
「え、和葉ちゃん喧嘩したの? 今日?今?」
「聞いてや、蘭ちゃん~~~」
アタシはこのもやもやをどうにか解消しようと、蘭ちゃんに泣きつく。
蘭ちゃんはただただ笑って聞いとった。

「…なんだ、そんなことなんだ。よかった。」


そんなこと?
蘭ちゃん…そう思うん?

そういえばアタシいつも、蘭ちゃんと工藤くんを見ながら
なんてくだらないことで喧嘩するんやろうって思ってたけど
…アタシらもかなりくだらん喧嘩しとったね、
いつも。

「なにか話しかけて、仲直りしちゃいなよ。
今日1日そんなんじゃ、せっかくの日が台無しでしょ?」
「蘭ちゃん…」

そうやな…。
みんな、来てくれとるんだし、アタシが暗い顔してたら、いかんよな。

「工藤くんは…平次んとこ?」
「あ、うんそうだよ。私行こうかな。
和葉ちゃんももう行く時間?」
「あぁうんそう もう準備終わったし…みんな来るやろ、
アタシも行くわ」

…蘭ちゃんがおってくれてよかったな
一人だと緊張してしまって、
平次の顔よう見られへんわ。


控室を出て、ロビーを歩く。
真っ先に目がいくんは…。

平次 や。

 

 

「工藤くん、かっこええな…」
「え?」

いや、これは違うん。
平次の姿見たら…恥ずかしくてなんも言えんのや。

紋付袴似合いすぎやで。
あかん、まともに見られへん…。

「おう和葉、お前旦那目の前にして、他の男まず褒めるなん、いい性格してるなほんまに」
「だ、だって…
工藤くんのスーツ姿かっこええやん」
「さよか。
お前はちーと化粧が濃すぎるんとちゃう?」
「な、なんやのそれ!!もっと他に言うことあるんやないの!?」
「あ?今日寝坊したことか?そら悪かったなぁ」

そ、そうやけど…。
さっきからそれ、言うて欲しかったことやけど…。

今は違うやろ、
アタシの白無垢姿を見て、言うことあらへんの?
まず第一に化粧が濃いやて?
なんやのそれ!!
アホ!!


…ちゃうわ、アタシや。
アタシが真っ先に工藤くんかっこええ、なんて言うたん。
アホはアタシや。


「へ、平次が一番かっこええよ…。
工藤くんもかっこええけど、その姿似合うんはやっぱりアンタやと思うわ。
推理では工藤くんのが上かもしれんけど、
探偵で一番になれへんくっても、
アタシにとっては平次が一番や。
ずっと昔から、これからもずっと」

「和葉…
お前、それ褒めてへんよな?」

「え?なんで?」
「推理では工藤のが上とか探偵で一番になれへんとか…
素で言うとるなんて余計にショックやわ」
「ご、ごめん」

あかん、やってしもーた。
平次、工藤くんと比べられるんが一番嫌なん、わかってるのに…。

「まぁええわ。
和葉の一番ならええわ。そういうことにしとくわ」
「え…」


「なぁ平次、アンタ髪ハネてるで 直し」
「いつものことや。
オレはええんや。今日は脇役やで。
主役はお前やろ、可愛い可愛い和葉ちゃん」

「な…!なにその言い方」

バカにしとるん?
本気なん?
よう、わからんけど…まぁええか。

平次、笑っとるから。


「あかん…」
「今度はなんや?」
「指輪…忘れてきた」
「はぁぁぁ!?
アンタなにやってるの!? 一番大事なもん忘れんといて!!
平次のドアホー!!!」
「あ~ちゃうちゃう!
お前や!そうや、お前に渡したやろ
カバン中見てみぃ!」
「え…?
…あぁ、そういえばさっきもう渡したわ、係の人に」

「ほんま、お前アホやわ。お前とおると退屈せんわ」
「アンタが先にへんなこと言いだしたやん。こっちのセリフやわ」

アタシらこの先ずっとこうして、
アホアホ言い合いながら過ごしてくんやろか。

そんなこと想像したら、アタシもえらい笑えてきたよ。

 

「あいつら…なにやってるんだ?」
「喧嘩したと思ったらもう笑ってる。
昔から変わらないね。仲がいいのか悪いのか。」

「バーロー!
どっからどう見たって、仲いいじゃねーか。」

「そうだね!」

なんや?
蘭ちゃんたちも笑ってるわ。


今日はなんか本当に、ええ日になりそうやわ。

最悪、なんて思ってゴメンな。

最高の日やで。

 

「和葉―ほんまによかったなぁ!」
「信じとったけどな、アンタら結婚するって!」

アタシと平次が並ぶんを見て、中学からの友達も、高校からの友達も、
みんな、喜んでくれとる。
さっきまで笑っとった蘭ちゃんも、なんでや、泣いてるやん…。
アタシもそんなみんなを見ると、涙が出そうになるよ。

「お前まだ泣くなよ。化粧が崩れるで」
「こういうときの化粧は、取れへんやつ使うてるんや」
「けどぶっさいくになるで、やめとけや」
「なんやの、もう」

 

小さい頃、
アンタの影をただ追いかけて歩いたこともあった。
そのままの気持ちで中学生になって、高校生になって、
隣に並んでも、ずっとくっついていられるか不安で、
でもただただそばにいたいと願ってた。

今はアタシちゃんと、アンタの隣におるよ。
並んでるよ。
この先、永遠に続く道を、
一緒に歩いとる。

 

「なぁ平次、今日まで、楽しかったな。
いっぱい想い出作ってくれて、ありがとう。」
「なに言うとるん。
これからの人生のが長いんやで。
よろしゅうな。オレの嫁さん。」
「うん…!」


なぁ平次、
今日まで、アタシはずっと、アンタひとすじや。
アンタしか知らんのや。
それが、アタシの誇りや。
かわええやろ?

これからもっと可愛い女になるよ。
アンタのために。


それが、アタシの、今日の誓いや。

 

 

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『シルエット』♪コブクロより

大好きなコブクロの、この曲を使わせていただきました。
和葉姉ちゃんが、本当にお嫁に行く日のお話です。
 
2013/08/31 UP

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